作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。
6月29日(日)の放送は「村上RADIO~ボブ・ディラン・ソングブック~」をオンエア。今回は、好評の「ソングブック」シリーズにいよいよボブ・ディランが登場。さまざまなアーティストが趣向を凝らしてカバーしたボブ・ディランの名曲の数々を、村上DJの選曲でたっぷりとお届けしました。
この記事では中盤4曲について語ったパートを紹介します。
◆Joshua Redman「The Times They Are A-Changin'」
◆The Band「One Too Many Mornings」
次はアルバム「時代は変る(The Times They're A-Changin')」から2曲を聴いてください。タイトルソング「The Times They Are A-Changin'」、ジョシュア・レッドマン・カルテットのクールな演奏で聴いてください。ピアノはブラッド・メルドーです。
タイトルの「The Times They Are A-Changin'」の A-Changin'についてときどき質問を受けます。Changin'の前にA-がついているのはどうしてなのか、と。辞書的に言いますと、動名詞の前にA-がつくのは多くの場合、その動作がまさに進行の途中にあることを意味します。だから「時代は変わる」というよりは「時代はまさに変わりつつある」というニュアンスなんでしょうかね。またまた英語の授業みたいになっちゃってすみません。でもディランの歌では歌詞の細かいところがけっこう大事になってくるんです。
そして、The Bandが「One Too Many Mornings」を歌います。「One Too Many Mornings」って、とても訳しにくい表現なんだけど、「朝が結局ひとつぶん余計だったね」という感じかな。恋人とのその一夜が、彼に最終的な朝の失望をもたらしたんでしょう。おれって「ひとつだけ余計な朝」であり、そして1,000マイルも離れたところにいるんだ、とディランは歌います。The Band、もともとユニットとしてボブ・ディランのバック・バンドを務めていただけあって、しっかり筋の通った演奏になっています。
◆The Byrds「All I Really Want To Do」
◆Alan Price Set「To Ramona」
さて、次は1964年にリリースされたアルバム『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』から聴いてください。これも素晴らしいアルバムですよね。素敵な曲がいっぱい入っています。なのにアメリカの雑誌「ローリング・ストーン」のレコードガイドで「まあまあの出来」を意味する三つ星しかもらっていないのは、ちょっと気の毒な気がします。
まずはザ・バーズの演奏する「All I Really Want To Do」、そしてアラン・プライス・セットの演奏する「To Ramona」です。アラン・プライスはジ・アニマルズのオリジナル・キーボード奏者ですね。「朝日のあたる家」でのオルガン・ソロは印象的だった。彼はアニマルズを脱退してこのアラン・プライス・セットというバンドを組みました。
バーズは「ミスター・タンブリン・マン」で有名ですが、ディランの曲をポップス風に「翻訳」することで人気を得ました。ボブ・ディランとザ・ビートルズのいちばん大きな違いは、ディランは幅広い層に自分の音楽を届けるためには「翻訳」をある程度必要としたし、ビートルズはそんなものを必要としなかったということになるかもしれません。でも、そのぶんディランのコアなファン、支持者の熱意、忠誠心は実に半端ないみたいです。
それではバーズの「All I Really Want To Do」、そしてアラン・プライスの「To Ramona」。
----------------------------------------------------
この日の放送をradikoタイムフリーで聴く
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
----------------------------------------------------
<番組概要>
番組名:村上RADIO~ボブ・ディラン・ソングブック~
放送日時:6月29日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/