一龍斎貞弥さん、住吉美紀
住吉美紀がパーソナリティをつとめるTOKYO FMの生放送ラジオ番組「Blue Ocean」(毎週月曜~金曜9:00~11:00)。“プロフェッショナルの素顔に迫る”をテーマに、各界で活躍されている素敵な方々をゲストに迎えて話を伺うコーナー「Blue Ocean Professional supported by あきゅらいず」。
1月23日(月)のゲストは、講談師の一龍斎貞弥(いちりゅうさい・ていや)さん。今回の放送では、話題を集めた声優の仕事、講談師になった経緯について語ってくれました。
一龍斎貞弥さん
1990年からナレーター・声優として“声”の世界で活動する貞弥さん。2007年には講談師の一龍斎貞花(いちりゅうさい・ていか)さんに入門。2008年に前座となり、「貞弥」の号を受けます。2011年に「二ツ目」、2022年9月に「真打」に昇進しました。
一龍斎貞弥さん
◆“犯人の声” “給湯器の声”も担当!
住吉:貞弥さんのプロフィールを拝見して「このお声の方!」とテンションが上がったのは、(2022年4月~6月まで放送された二宮和也さん主演の)ドラマ「マイファミリー」(TBS系)です。誘拐犯が電話で使った“自動音声のような声”を担当したのが貞弥さんだったんですよね?
貞弥:そうなんです。
住吉:自動音声のような声は、実際のお仕事でもされているんですか?
貞弥:たくさんしています。給湯器やカーナビ、航空会社の音声案内などいろいろです。声の仕事のなかでもナレーションや音声合成がすごく多かったです。
住吉:「マイファミリー」を観たとき、うちの(給湯器の)「お風呂が沸きました」と同じような気がしました(笑)。「マイファミリー」のセリフを言っていただけますか?
貞弥:「友果さんを誘拐しました」「5億円用意してください」――こんな感じですね。
住吉:すごい! 自動音声って単語ごとに録ったものを人間が合成しているので不思議な区切りがありますが、それを(再現)できるという。
貞弥:“区切っているように編集したふう”にしゃべっています(笑)。
住吉:安定したテンポも体のなかに染み込んでいるんですね。
貞弥:そうなんです。実際の音声合成はもっとスムーズです。今は普通の読み上げに相応した技術がありますが、黎明期は難しかったんです。アナログで録ったものをデジタルに変換して、最終的にあのような形に編集するものでした。30年近く前、(私が担当した)留守番電話の内蔵音声のシェアは5割ぐらいあったと思います。
住吉:すごい!
◆40歳で自分のキャリアを振り返ったときに…
住吉:声の仕事をしつつ、43歳のときに“講談”という伝統芸能の門を叩かれた経緯を教えていただけますか?
貞弥:一言で言ったら“欲”ですかね。もっといろんなことをやりたくなったというか、物足りなくなったんです。入門したのは43歳ですが、実際に講談を知ったのは40歳ぐらい。自分のキャリアを振り返ったときに、このままやっても道はあるけど、それだけじゃもったいない気がしたんです。もっと他にできるんじゃないかなって。
先輩方を見ていると、女性って仕事がどんどん減っていくんです。そうなったときの頭打ち感があるなと想像ができたんです。本来、どんどん力を溜めて発揮して、歳を取れば取るほどいい仕事ができるはずなのに、社会的な条件や事情で先細りになるのがもったいない気がしたんです。それなら何か違う武器、付加価値みたいなものを身に付けることができたら、もっと違う世界が広がるんじゃないかなって思いました。
住吉:素晴らしい。
貞弥:あとは、単純に表現の欲というか、もっと人間らしい感情を出すような、いろんな表現がしたいと思いました。いろんなヒントを探していくうちに見つけたのが伝統芸能だったんです。ちょうどその頃、伝統芸能の重要文化財クラスの方たちが講師になって、プロ向けの講座を開いてくれていたんです。片っ端から受けたんですけど、本当に楽しかったです。
そのうちの1つに、今の師匠が先生をやっていた講談セミナーがあったんです。それに参加したら「これは面白いんじゃないかな」と思いました。自分が今までやってきた「“読む”ことを活かせるぞ」と思ったんです。
住吉:たしかに!
貞弥:講談は“読む芸能”ですが、“読む”だけでなく“会話”もあるので、登場人物のいろんなキャラクターを演じることができます。なおかつ自分で話を作ることもできて、脚本家にもなれます。自分で“自由に読む”演出の部分もありますし、トータルで見たときに、いかようにもやり方があるんじゃないかなって思いました。
住吉:ラジオを聴いている方のなかには、落語と講談の明確な違いがわからない方がいると思うのですが、いかがですか?
貞弥:似ている部分はいっぱいありますが、落語は主に会話で物語が進んでいきます。“話”で進むから噺家(はなしか)さん。講談の場合、基本は“読む”んです。現代風だとキャラクターをしっかり演じるものも多くなってはいるのですが、基本は読みます。
あと、落語家さんの場合、出てくる人物がとても抽象的。具体的な固有名詞がなく、話の変化球を投げてくすぐる感じです。講談は、どんな時代に、どこの誰それさんが、こんなことをした……と具体的に話を進めます。話をストレートに、ぐいぐい攻めてくる感じが講談ですね。
住吉:ナレーションのお仕事が活きますね。それを芸にする世界ですよね。
貞弥:そうです。講談の世界に入った理由の1つとして、すぐにできないことを仕事にしたかったんです。(講談の)芸というのは、1つの演目に、ものすごく時間をかける「高座百編」と言われる世界なんです。
何度も同じ話をかけたりして、お客さんに聞いていただいて、10年後、20年後の自分がどうなっているのかすごく楽しみだなって思ったんです。たぶん、講談の世界に入らなかったら、わからなかった世界や、できなかった表現がいっぱいあるんじゃないかな。
貞弥さんが入門された当時、前座時代の高座から(場所:お江戸日本橋亭)
◆闘病中に真打昇進の知らせが…
住吉:真打(※しんうち:落語家や講談師の身分の1つ。最高の階級で、最後の出番に出演できる実力者)に昇進される前、実は(血液のがんの1つ)悪性リンパ腫になられていたんですよね。治療中に昇進のお話を伝えられたとお聞きしました。
貞弥:そうなんです。抗がん剤の副作用で唸っているときですね(笑)。師匠から「決まったよ」と連絡がありました。
住吉:悪性リンパ腫は突然わかったんですか?
貞弥:はい。痛みが2週間ぐらい続いていたのですが、仕事があったので吐きながら(笑)。夜中は眠れなくて大変でしたが頑張っちゃって。病院に行ったら「救急車で運ばれるレベルですよ」と言われました。本当に「死ぬかもしれない」と思いましたね。
住吉:入院・手術をされている最中に昇進のお話を知らされたときは、どんなお気持ちでしたか?
貞弥:師匠としては、とにかく元気になってもらいたい気持ちがあったと思うんですよね。少しでも早く報告して、励みにしてもらいたいと思ってくれていた気がします。でも、私は励みどころじゃなかった(笑)。
もちろん嬉しかったんですけど、苦しかったし、「治るかどうか……」という思いがありました。(真打昇進は)本当は3月だったのですが、「とても無理です。準備に間に合いません」ということで秋にしていただきました。
住吉:そうだったんですね。現在は寛解されたんですよね?
貞弥:そうですね。元気です。
住吉:秋の昇進は励みになりましたか?
貞弥:そうですね。目の前にやらなきゃいけないことが山積みになって、急に忙しくなったんです。復帰したあとに稽古をしていくことと、真打披露準備の2本立てだったので大変でした。
住吉:真打の高座は感慨深かったのではないでしょうか。
貞弥:はい。いろいろありました(笑)。
住吉:おめでとうございます! お仕事でいろんな人の人生をドラマチックに伝えていらっしゃいますが、貞弥さんご自身の人生もすごくドラマチックですね。
貞弥:「人生のいいことも悪いことも、全部ひっくるめて受け止めよう!」というか、「これまで自分を大事にしていなかった……」と気付きましたね。あるがままに楽しもうと思いました。
住吉:貞弥さんの今後の講談は3月5日(日)、東京・武蔵野芸能劇場で「寿 一龍斎貞弥真打昇進披露興行」、3月10日(金)に深川江戸資料館・小劇場で「伝承の会 楽日」となります。ぜひ、講談の世界に触れていただければと思います。
2022年10月18日、「真打昇進披露興行」初日の高座から(場所:お江戸日本橋亭)
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<番組概要>
番組名:Blue Ocean
放送日時:毎週月~金曜9:00~11:00
パーソナリティ:住吉美紀
番組Webサイト:
http://www.tfm.co.jp/bo/
特設サイト:
https://www.tfm.co.jp/bo/aky/