作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。6月25日(日)の放送は「村上RADIO~再びアナログ・ナイト~」をオンエアしました。エルヴィス・プレスリーのデビューアルバムから、村上さんがボストンの中古レコード店の1ドル・コーナーで買ってきたレコードまで、自宅から厳選して持ってきたアナログ・レコードを村上DJの楽しい解説付きで紹介しました。
この記事では、中盤2曲を紹介した内容をお届けします。
◆Elvis Presley「Blue Moon」
次はエルヴィスをいきます。といってもコステロじゃなくて、プレスリーのほうです。このあいだ飛行機でバズ・ラーマン監督が作った映画「エルヴィス」を観ました。映画そのものは、まあよくある「バイオピック(伝記映画)」パターンだけど、エルヴィス役の俳優、歌がうまかったですね。たぶん本人が歌っていると思うんだけど。
今日聴いてもらうのは、1956年に発売された彼のデビュー・アルバム『エルヴィス・プレスリー』に入っている「ブルー・ムーン」です。これはロジャーズ&ハートのコンビが1934年に書いたスタンダード曲なんだけど、それをエルヴィスが取り上げて歌っています。でも不思議なことに、サビの部分をまったく歌わないんです。忘れちゃったのか、それとも意図的にすっ飛ばしたのか、メインのメロディーだけを何度も何度も繰り返して歌っています。途中に適当な即興のフレーズを挟んで。でも、それがなんだかとても不思議な効果を出しているんです。伴奏もギターの胴を自分でトントンと叩くみたいなサウンドだけだし、エコーがかかりまくりの録音だし……。僕はエルヴィス・プレスリーという人の異様性というか、何かしら並外れたものをそこに感じちゃうんだけど、それって感じ過ぎでしょうかね?
<収録中のつぶやき>
僕はこれ、サビの部分のコード進行を忘れちゃったからじゃないかと思うんだけど(笑)。面倒くさいからサビ抜きで行っちゃえみたいな感じで、よくわからないんだよね。謎に満ちている。
◆Livingston Taylor「City Lights」
神宮外苑の再開発がいろいろと話題を呼んでいますね。僕はヤクルト・スワローズのファンなので、東京にいるときは神宮球場に歩いて行けるところにずっと住んでいます。昔はほとんど毎朝、外苑のまわりをランニングしていました。あの周回コース、1キロメートルちょっとで、走るのにちょうどいいんです。100メートルごとに印(しるし)がついているしね。
昔、もっと若い頃、外苑のまわりを走っていると、いつも1人の若い女性ランナーとすれ違いました。僕は常に反時計回りに回るんですけど、彼女は常に時計回りに走っていて、従って1周につき2回すれ違います。とても素敵な感じの良い女性で、毎朝顔を合わせているうちに、自然にお互いにっこり会釈するようになりました。でも、お互い逆方向に走っていますから、声をかけたり、そういうことってできません。
で、そのうちに僕はヨーロッパで暮らすようになって、東京を離れて、その素敵な女性とはそれきりになってしまいました。とても残念です。それは僕にとっての密やかな良き思い出になっております。まあ、そういうこともあって、僕は神宮外苑の再開発には強く反対しています。
緑溢れる気持ちの良いあの周回ジョギング・コースを、そして素敵な神宮球場を、どうかこのまま残してください。一度壊したものって、もう元には戻りませんから。
リヴィングトン・テイラーを聴いてください。お兄さんのジェームズ・テイラーとデュエットで「シティ・ライツ」を歌います。このアルバムのジャケットの絵は矢吹申彦さんが描いていて、これがとても素敵なんです。
<収録中のつぶやき>
400メートルトラックって、反時計回りじゃないですか。だからもうそれが習慣になっていて、つい反時計周りに走ってしまうんだけど、時計周りが好きな人もいるよね。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO ~再びアナログ・ナイト~
放送日時:6月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/