アーティストの坂本美雨がお届けするTOKYO FMのラジオ番組「坂本美雨のディアフレンズ」(毎週月曜~木曜11:00~11:30)。今回の放送は、映画監督の是枝裕和さんがゲストに登場。現在公開中の映画『怪物』撮影エピソードや、同作の楽曲を担当した坂本龍一さんとのエピソードを語ってくれました。
坂本美雨、是枝裕和監督
1962年生まれ、東京都出身の是枝監督。早稲田大学卒業後、テレビ番組制作プロダクション「テレビマンユニオン」でドキュメンタリー番組などを演出。1995年、初監督した『幻の光』が「第52回ベネチア国際映画祭」で金のオゼッラ賞(最優秀撮影賞)を受賞。2004年、「第57回 カンヌ国際映画祭」にて『誰も知らない』主演・柳楽優弥さんが日本人初&史上最年少の最優秀男優賞を受賞。
その後、『歩いても 歩いても』(2008年)、『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(2015年)などで、国内外の主要な映画賞を受賞。そして、2018年に『万引き家族』が「第71回 カンヌ国際映画祭」でパルムドールを受賞しました。
昨年公開された『ベイビー・ブローカー』は初の韓国映画で、主演のソン・ガンホさんが「第75回 カンヌ国際映画祭」で韓国人初となる最優秀男優賞を受賞。前作公開から1年経たずして、是枝監督の最新作『怪物』が6月2日(金)から公開中です。同作は「第76回 カンヌ国際映画祭」で脚本賞(脚本家・坂元裕二さん)および、日本映画では初の「クィア・パルム賞」を受賞しました。
◆是枝「坂本さんに断られたら、もうどうしようもなかった(笑)」
坂本:『怪物』の音楽を私の父・坂本龍一が担当しました。本当にありがとうございました。
是枝:本当にご一緒できてありがたかったです。
坂本:是枝監督からお声がけいただいたそうですが、なぜ、この作品は坂本龍一の音楽だったんでしょうか?
是枝:いつかご一緒したいと思いながら、なかなか実現しなくて。10年以上前に一度、お願いをさせていただいた企画がありまして。それが準備段階で一度、頓挫してしまって「ご縁がないのかな」と思っていました。(僕は映画を撮るときは)いつも最初に楽器を決めるんです。
坂本:楽器?
是枝:自分で脚本を書きながら、いろいろなジャンルの音楽をかけながら書いて、しっくりきたところで「ギターかな」とか「今回はクラシックのほうでいこうかな」「これはピアノかな」と、楽器を決めて作曲家を決める流れが多いんです。
だけど今回は自分で脚本を書いていないので、いただいた脚本をもとにロケハンで場所を決めるためにあちこち回って。最終的に長野県の諏訪湖がある町へたどり着いたときに、夜の街の灯りに縁どられた真っ黒な諏訪湖を見て「ここに(映画内で登場する)消防車が走るんだな」と思って。そうしたら「ああ、坂本さんのピアノがいいな」と思いました。
坂本:へー!
是枝:だから今回は「ピアノだな」じゃなくて「坂本さんのピアノだ」と思ってしまったので。そこから撮影が始まって、映像を観ながら毎晩編集をするのですが、そこでずっと坂本さんの曲をかけていました。勝手に仮当てをして編集をしてしまったものですから、これは坂本さんに断られたら、もうどうしようもなかったです(笑)。
坂本:(笑)。
◆坂本龍一との共同作業が実現
坂本:父からは聞いていませんが、最初の返事はどんな感じだったんですか?
是枝:間接的にいろいろな情報は入っていて「病状のこともあるので難しいかな」と言われていたんです。
坂本:体力的に。
是枝:だけど、ここで僕があきらめると、後々に絶対後悔すると思ったので、まずお手紙を送りました。思いのほか早くお手紙が届いて「観ました。とても面白かったです。お引き受けしますが、全体の音楽をやる体力が残っていません。だけど頭のなかにイメージが浮かんでいるものがあるので形にしてみますから、できたら送ります」というお手紙でした。
坂本:今回の劇伴では「Monster 1」「Monster 2」という曲が書き下ろしになっています。
是枝:最初に「1」が届きました。
坂本:どう思われましたか?
是枝:歓喜してすぐに編集に当ててみて。本当に共同作業が実現したということがうれしくて。これだけでも十分だと思いましたが、もう1曲お願いしてしまいました。
◆仮当段階からフィットした既存曲
坂本:そのほかの曲は、是枝監督が既存の曲のなかから選ばれたんですか?
是枝:最初に送った仮当てのもののなかに何曲か僕の好きなというか、この作品でもし既存曲を使わせていただくのであればどれだろうか、ということで、いろいろな曲を試しながら最終的に選んだものを送らせていただきました。できあがった映画にそのまま使わせていただいた曲も何曲かあります。
坂本:「hibari」は本当に、この映画のためかなと思うような。
是枝:実は最初は、子どもたち2人が自転車に乗って初めて街を旅するというか、秘密基地にたどり着くところに「hibari」を当てていましたが、結果的には違うところで使いました。
僕は音楽のことは詳しくないのですが、「hibari」の2つのものが合わさったり離れたりする感じが、あの少年2人にすごくピッタリだなと思いました。
坂本:本当にそう思いました。彼らが妖精みたいにキャッキャとしている様子のような曲です。
◆坂本龍一「自分の音楽が邪魔をしないように」
坂本:映画のなかで音楽が、最小限だったのかなと思いました。
是枝:あまり頼りすぎないようにしようと思っていました。何度かお手紙のやり取りをさせていただいたなかで、坂本さんから「音楽室(のシーン)がとてもいい。あそこで、最初は気づかないぐらい響いてくる音がとてもいいので、自分の音楽が邪魔をしないように」という言葉が僕に届けられました。
僕もあのシーンがとても重要だなと思っていたので、あそこに向かって行くための音だと。音楽も含めていろいろな音があるので、それと調和のとれた音楽の入り方というのは常に意識して考えていました。なので控えめに、いつの間にかかかって、いつの間にか消えているという。そんなイメージでした。
坂本:教授(坂本龍一)は最後まで音楽を作っていたのですが「自然の音や人間が出す音にはかなわない」と、きっとずっと思っていて。あのシーンでそれを思いました。きっと父もあのシーンでそう思ったんだろうなと観ながら思っていたので、いま答え合わせをしたような感じです。
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映画『怪物』は現在絶賛公開中です。詳細は公式Webサイトまで。
7月3日週のゲストは、3日(月)Schroeder-Headz(渡辺シュンスケ)さん、4日(火)床嶋佳子さん、5日(水)岬なこさん、6日(木)Coccoさんです。
<番組概要>
番組名:坂本美雨のディアフレンズ
放送エリア:TOKYO FMをはじめとするJFN全国38局ネット
放送日時:毎週月曜~木曜11:00~11:30
パーソナリティ:坂本美雨
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/dear/