川瀬良子がパーソナリティをつとめ、日本の農業を応援するTOKYO FMのラジオ番組「あぐりずむ」。毎週火曜は、農業はもちろん、時代の先を捉えるさまざまな研究をおこなっている東京農業大学の農学研究を紹介します。8月13日(火)、8月20日(火)、8月27日(火)の放送では、野生動物学研究室の佐々木剛(ささき・たけし)教授が出演。3週にわたって、専門領域である「深海魚」をテーマにお話を伺いました。
(左から)佐々木剛さん、川瀬良子
◆“深海魚”ってどんな魚?
一般的に水深200メートルより深い海域に住む魚を“深海魚”と呼び、高級魚として知られるノドグロやキンメダイをはじめ、カレイやスケソウダラなども深海魚の一種です。「(水深200メートルにもなると)光合成もできないので、海藻とかも全然ありません。真っ暗で寒いし、圧力(水圧)が高いので、生き方が全然変わってきます」と佐々木教授。
例えば、キンメダイは目が大きいことが特徴的ですが、これは、わずかな光をできるだけたくさん取り込むために大きくなったそう。また、メヒカリなど目が光って見える深海魚もいますが、「そのような魚は、届いた光を目の網膜の後ろにある反射板のような組織を使ってもう1回反射させることで、光をキャッチする機能があります」と解説。ほかにも、目で見ることを諦め、目の代わりに他の感覚を研ぎ澄ませて生きている魚も存在します。
産卵時も特徴があり、「浅いところで産卵するパターンが多いみたいです。浅いところのほうが栄養豊富なので、卵からかえったときは浅い海でたくさん食べて育ち、ある程度の大きさになると深場に潜ってくる、という生態です」と説明。
浅いところで産卵された卵は、海流に乗って世界中に散らばっていくため、「全部が全部ではありませんが、“日本生まれ・オーストラリア育ち”みたいな、世界を転々とする生態がほとんど。そうやって生息する場所が広いというのは“絶滅のリスクを下げている”という面もあります」と話します。
◆佐々木教授イチオシの深海魚は?
続いて、佐々木教授にイチオシの深海魚を聞いてみたところ、即答で「ホウキボシエソ」を挙げます。
この魚はあごの下の皮膚がないのが大きな特徴だそうで、「なぜかというと、皮膚があると水の抵抗によって獲物に噛み付くスピードが落ちるからなんです。肉食性のホウキボシエソは、鋭くて長い歯が下あごから伸びているんですけど、下あごが頭1つぶんくらい前方に飛び出します。つまり、飛び出しのスピードを上げるために下あごの皮膚を取っ払い、前方の魚を捕まえたら、鋭い歯でフックのように引っかけて(のどの奥まで)持ってくるんです」と解説します。
◆深海魚の研究に期待できることとは?
佐々木教授いわく、すごく深い場所に生息している深海魚は黒い魚が多いそうで、「我々にとって“色が見える”というのは、対象物にあたって跳ね返ってきた光で色や模様が認識できるんですけど、黒い魚は光を跳ね返さずに吸収していることになります。そのなかでも、ウルトラブラックと呼ばれる超黒色型の深海魚は“99.96%の光を吸収する”という結果が出ておりまして。これは熱帯にいる超黒色型の蝶と一緒の吸収率で“世界最強の真っ黒な生物”ということが分かっています」と興奮気味に語ります。
なぜそれほどの光を吸収するのかというと、「(ウルトラブラックの)メラニン色素の構造が特徴的で、楕円形で“直径約400ナノメートル”という決まったパターンが見つかったと。この400ナノメートルは深海に届く青色の波長のだいたい400~500弱ナノメートルと同じ大きさなんです。さまざまな直径のメラニン色素を想定したコンピューターシミュレーションによる光の吸収率を計算した研究によって、楕円形の500弱ナノメートルのメラニン色素が“一番光の吸収率が高い”という結果が示されました」と説明。
さらに、この研究が私たちの生活に活かせるのではないかと佐々木教授は言います。「“光を最大限に吸収する”というのは技術的にすごく大事で、何千万年、何億年かけて作り上げた機能というのは我々には作り出せません。であれば、そこからヒントを得てマネをすればいいんです」と持論を展開し、今後のさらなる展開に期待を寄せていました。
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8月27日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年9月4日(水) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:あぐりずむ
放送日時:毎週月曜~木曜 15:50~16:00
パーソナリティ:川瀬良子