作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。7月30日(日)の放送は「村上RADIO~歌うジャズ器楽奏者たち~」をオンエアしました。ギタリストのケニー・バレル、ジャズ・ピアニストのジミー・ロウルズからサックス奏者の渡辺貞夫さんまで、“普段は楽器を演奏しているけど、たまには余技として歌います”というミュージシャンの楽曲を放送しました。村上さんがご自宅から厳選して持参した古いオリジナル盤のレアな楽曲を、村上DJの楽しい解説付きで紹介しました。
この記事では、中盤2曲についてお話した内容を紹介します。
◆Buddy Rich,Ella Fitzgerald「Blue Skies (Budella)」
この特集、男性の歌ばかりが続くので、女性ボーカルも少し混ぜましょう。エラ・フィッツジェラルドとバディ・リッチがかけあいで歌います、「ブルー・スカイズ」。
バディー・リッチは派手なドラミングで有名なドラマーですね。ビッグバンドのリーダーとしても活躍しました。でもこの人は、もともとは歌手兼ドラマーだったんです。でも二兎を追うのはまずいと思ったのか、キャリアの初期に歌手の道をあきらめて、ドラムに専念しました。
同じ時期にやはり歌手兼ドラマーだったのがメル・トーメで、彼は逆にドラムを断念して、歌手として成功を収めました。一説では2人の間で「おまえ歌手やれよな。おれはドラムだけやるからさ」みたいな取り決めがあったということですが、そこに居合わせたわけではないので、真偽のほどはわかりません。
でもリッチさん、なにしろエラ・フィッツジェラルドと対等に渡り合って歌うわけですから、歌は本格的にうまいです。ドラマーになってからも、歌手としての活動に未練があったようで、何枚かボーカルのレコードを出しています。
聴いてください、「ブルー・スカイズ」、1947年、ニューヨークの放送局での公開録音です。最初に2人で「何を歌おうか」という愉快な話しあいがあり、結局「ブルー・スカイズ」でいこうということになります。歌詞はよく覚えていないので、途中からスキャットの応酬になります。
<収録中のつぶやき>
これ、楽しいです。もとがSP盤なんで、ちょっとぷちぷちが入っちゃうんですよね。これはレコードのせいじゃなくて、オリジナルのノイズです。
◆Kenny Burrell「I'm Just A Lucky So And So」
次はギタリストのケニー・バレル。僕は数多くいるジャズ・ギタリストの中でも、この人がなにしろいちばん好きです。派手なテクニックは見せないけど、ハードでブルージーなシングル・トーンのソロがたまらないです。背後にまわってのバッキングも、そのセンスの良さにしばしば唸(うな)らされます。僕は一度ジャズ・クラブで生で聴いたことがありますが、その音に痺(しび)れました。とても寡黙な感じの人でね。
このケニー・バレルは生涯に1枚だけボーカル・アルバムを出しています。『Weaver of Dreams』というタイトルのLPです。でも、そのあとぜんぜん歌っていないところをみると、あまり評判良くなかったんでしょうかね。それとも本人が「恥ずかしいから、もう歌はいいや」と思ったのか、そのへんはわかりませんが、まあ僕としては彼のギター演奏が聴けるだけでオーケーです。
デューク・エリントンの名曲「I'm Just A Lucky So And So」を聴いてください。途中で入るテナー・サックスのソロはボビー・ジャスパーです。
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7月30日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限:2023年8月7日(月)AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:村上RADIO~歌うジャズ器楽奏者たち~
放送日時:7月30日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/