モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。2月28日(水)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「医師の働き方改革」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。
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◆「働き方改革」で医師の残業時間上限が年960時間に
病院や診療所などに勤務している医師の労働時間に上限を設ける「医師の働き方改革」が4月から始まります。
吉田:塚越さん、「医師の働き方改革」とは何なのか教えてください。
塚越:簡単に言えば、残業時間の上限が「年960時間」となるものです。他の職種はすでに始まっている規制で、医者は特殊な職種ということで猶予時間が与えられていたのですが、今年4月からこの上限が適用されます。
原則、勤務医の時間外労働は休日労働を含む年間960時間となり、月平均では80時間。この水準は一般の労働者とほぼ同じです。ただ、事業主にあたる開業医は制限対象外です。
また、地域医療に支障が出るようなやむを得ない場合は、勤務医は年間1,860時間が上限となる特例がありますが、これもあくまで暫定措置であって、今後10年程度で解消することが目標となっています。
◆残業が当たり前の病院も…勤務医の2割は上限規制超えの労働
吉田:医師の長時間労働は以前から問題になっています。今はどのような状況なのでしょうか?
塚越:基本的にお医者さんは「超」忙しいです。読売新聞が情報公開請求したところ、都道府県と政令市が運営に関わる251の公的病院のうち、およそ17%にあたる42の病院が2018年以降、医者の違法な長時間労働で労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが分かりました。
この42の病院のなかで、国が「過労死ライン」としている月100時間以上の残業をしていた病院は25ありました。読売新聞は、働き方改革直前となっても対応が十分に進んでいないと指摘しています。
厚生労働省が調査した2022年の残業時間でも、上限規制の960時間を超えた勤務医は2割いました。それでも2019年の調査に比べると半減したのですが、それだけ医師は激務だということです。特に残業(あるいはサービス残業)が当たり前になっている病院が、4月までに「改革」ができるかどうかが課題です。
◆論文発表は「自己研鑽」…労働時間にカウントされず
ユージ:「医師の働き方改革」で課題と言われているのが「自己研鑽(じこけんさん)」。こちらはどういうことでしょうか?
塚越:残業問題があるなかで、もう1つの大きな課題が自己研鑽です。医者の業界は技術のアップデートなどもあり、論文を読んだり、学会発表したりする「自己研鑽」が必要になります。
ユージ:常に最先端にいないといけませんよね。
塚越:そうです。厚生労働省が2019年7月に通達した文書「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」では、上司の指示や業務と関連があれば「労働」で、それ以外は「自己研鑽」としています。これは業務にカウントされず、曖昧な領域です。
大学の業務も同じで、どこまでが仕事でどこからが自分の研究論文を読む時間なのかが曖昧です。リスナーのみなさんも、いろいろな職種のなかで、どこまでが業務なのかが曖昧なことはあると思います。
ユージ:たとえば(大学教授が)帰宅してから、翌日の講義に使う生徒向けの資料作りなど、作っている時間はお給料になりませんよね?
塚越:そうですね。曖昧なところが、かなり多いと思います。この問題は、例えば病院側がお医者さんに働かせたいと思ったとして、何でも「自己研鑽」として業務にカウントしなければ、残業規制が骨抜きにされかねません。
実際、神戸市東灘区にある「甲南医療センター」では、専門的な研修を受ける専攻医で、当時26歳の高島晨伍(たかしま・しんご)さんが2022年5月に過労自殺した問題もあり、「自己研鑽」のあり方は課題になっています。
この件では西宮労働基準監督署が、タイムカードや電子カルテの履歴から考えて(自殺する前の)1ヵ月の時間外労働はおよそ207時間だったと認定しています(過労死ラインは100時間)。
甲南医療センター側は、専攻医が申請していた残業は30時間であり、監督署は自己研鑽の時間を労働時間にカウントしていると反論しているのですが、調査報告書を遺族に開示しなかったり、ニュース・報道ドキュメンタリー番組「報道特集」(TBSテレビ系)の報道では、事件前にも別の専攻医が病院側に過重労働を訴えていたことも分かっているため、私は病院側に問題があると思います。遺族は病院側を2月に提訴しています。
◆日本の医療水準の高さは医師の「真面目さ」と「サービス残業」によって支えられてきた
ユージ:医師の「自己研鑽」について、塚越さんはどうすればいいと思いますか?
塚越:いろいろな制度を変えることが大事ですが、一方で日本の医療水準の高さはお医者さんの真面目さとサービス残業に頼って運営されていたことを、我々も知らなければいけません。そう考えると、そうしたお医者さんを守るために残業規制をしなければいけません。
実際、厚生労働省も今年1月に(自己研鑽に関する一部の)通知を改正し、医師の「業務」に学生の指導なども、労働時間としてきちんとカウントすると提示しました。自己研鑽と業務の曖昧さを少しでも減らそうという狙いです。
医療の現場においても「医療のDX化」(※DX(デジタルトランスフォーメーション)……デジタル技術を浸透させて、人々の生活をより良いものへと変革すること)を推進したり、診療所と手を組んで業務を減らしていったりするなどの取り組みをおこなっているのですが、それでもなかなか難しいと思います。
「とりあえず残業」という意識を変えるために「量より質」の方向に、日本の働き方を変えていくことを(社会)全体で捉えていく必要があると思います。そうした意味では、お医者さんは最前線の現場だとすごく感じております。
吉田明世、塚越健司さん、ユージ
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2月28日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年3月7日(木) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世