TOKYO FMグループの「ミュージックバード」で放送のラジオ番組「デジタル建設ジャーナル」。建設業界のデジタル化・DXを進めるクラフトバンク株式会社が、全国各地で活躍し、地域を支える建設業の方をゲストにお迎えするインタビュー番組です。パーソナリティはクラフトバンク株式会社の田久保彰太と中辻景子が務め、一般になかなか伝わりにくい建設業界の物語を全国のリスナーに広めます。
6月15日(日)の放送では、土木建築と介護業を手がける横浜市の株式会社小俣組に注目。事業内容やDXの取り組みについて紹介しました。
(左から)クラフトバンク田久保彰太、株式会社小俣組 代表取締役・小俣順一さん、介護ビジネス事業部・高橋豊さん、建築部・大﨑千菜さん、クラフトバンク中辻景子
◆建築業と介護業を手掛ける小俣組の事業内容を紹介
株式会社小俣組は大正11年に創業し、今年で103年目を迎える老舗の建築会社です。創業翌年には関東大震災が発生し、壊滅的な被害を受けた街の復興にも尽力。行政とともに歩んできた歴史ある企業です。
現在は、建築部門と並行して、介護事業にも注力。約20年前から始めた介護付き有料老人ホーム「サニーステージ」は、横浜・横須賀・東京を中心に11施設を展開しています。今回は、小俣組の代表取締役を務める小俣順一さん、建築部の大﨑千菜さん、介護ビジネス事業部の高橋豊さんをゲストに迎え、企業の歩み、DXの取り組みについて伺いました。
小俣組の主軸である建築事業では、民間のマンションやビル、公共施設の改修など、さまざまなプロジェクトを手がけています。なかでも建築部門は会社の要であり、公共工事では小学校の建設や施設整備など、地域に貢献する仕事も数多くあります。
小俣組が介護事業に取り組み始めたのは、平成16年。その背景には、建設業界特有の景気の波に対応するために、事業の柱をもう1本持ちたいという思いがありました。さらに、高齢化社会の到来を見据え、実際に身近な家族の介護を経験したこともきっかけのひとつだったといいます。介護事業を始めたのは、先代社長である小俣さんの父親でした。小俣さん自身も、入社当時はヘルパーとして現場に立ち、利用者と毎日触れ合っていたそうです。
サニーステージの運営にあたっては、「普通の老人ホームにしたくない」という特別な想いが込められています。「家族や孫が頻繁に来たくなるような施設を目指しています。若い層をターゲットにしたイベントを開催したり、地元の子どもたちとコラボをするといったようなことも頻繁にしていますね」と小俣さんは説明します。
そんなサニーステージの最新施設は、2025年4月にオープンした「サニーステージ北鎌倉」で、100室の規模を誇る大型施設です。一方で、30室のアットホームでコンパクトな施設もあり、「施設によって特色はさまざまです。たとえば、大規模な施設では階ごとにユニットケアを取り入れるなど、入居者が落ち着いて過ごせるよう工夫を凝らしています」と小俣さん。
建築業と介護業という、一見異なる2つの事業を手がける小俣組。しかし小俣さんは、どちらの業界も「人材不足」「中の様子が外から見えにくい」という共通点の課題を抱えていると指摘します。だからこそ、小俣さんは「アウトプットの場を増やして、もっと多くの人に知ってもらう努力が必要」と考えます。両事業の“見えにくさ”を打開するため、さまざまなアプローチを重ねているとも話していました。
◆書類の電子化で業務効率がアップ
小俣組では、現場業務の効率化と働きやすい環境づくりを目指し、さまざまなデジタル化を推進しています。たとえば、図面やメールの確認、工事写真の記録などをiPadでおこなえるようにし、現場でもスムーズに作業ができる体制を早い段階から整えています。また、安全書類の電子化も大きな変化のひとつです。
これまで紙で郵送・管理していた書類は、現在では「グリーンサイト」というオンラインシステムに一本化され、本社にいる専任担当者が一括管理しています。現場の第一線に立つ大﨑さんは入社8年目ですが、当初は分厚いファイルと照らした管理に多くの時間を割いていたことを振り返り、「今の現場では印刷してファイリングするだけなので、かなり楽になりました」と言います。
小俣組のDXの特徴は、現場からのアイデアがボトムアップで社内に浸透していく仕組みにあります。小俣さんは「現場から“こうしたい”という声が上がってくるのは超ウェルカム」と話し、建築部にはITに強い人材を複数配置していると明かします。彼らは現場経験も積みながら、本社側でシステム開発や業務フローの改善を進めていると説明しました。また、設計や積算部門からも「こんな新しいツールを使ってみたい」という提案が頻繁にあるといい、社内では新しいチャレンジを歓迎する姿勢が徹底されているとのことです。
(手前から時計まわりに)クラフトバンク中辻景子、クラフトバンク田久保彰太、株式会社小俣組介護ビジネス事業部・高橋豊さん、建築部・大﨑千菜さん、代表取締役・小俣順一さん
◆介護業界の“記録残業”をDXでなくす
一方で、介護業におけるDXは、近年の介護業界におけるDXの進展を受け、サニーステージではさまざまな取り組みがおこなわれています。
「介護は人の手でするもの」という意識が根強く残る業界ですが、利用者の記録作成や定期的な見回りなど、ルーティンワークも多く存在します。かつてはすべて手書きで記録されていたこうした業務も現在では大きく変化しています。
サニーステージでは、ベッドに設置されたセンサーを通じて、体温や血圧、脈拍などのバイタルサインを自動測定できるシステムを導入。これにより、2時間に1回の巡回や記録の業務が電子化され、職員の負担が大きく軽減されました。
「記録はパソコン上のシステムが自動でおこないます。また、全施設でインカムが使われているのですが、一部の施設では話した内容をそのまま電子化するシステムを試験導入しています。介護業界では定時が終わった後に記録する“記録残業”という風潮があるのですが、それをなくすための取り組みです」と高橋さんは説明しました。
また、介護現場で特に重要なのが「薬の管理」です。入居者の中には、似た名前の方が複数いることもあり、薬の誤投与は絶対に避けなければならない課題です。そこで、サニーステージでは服薬ミスを防ぐためのシステムを導入。機械が自動で“違います”と教えてくれる体制が整いつつあります。この仕組みにより、介護業界における薬の事故は「ゼロを目指すレベル」へと進化しています。
◆ドローン事業の可能性に期待
小俣組では、建築業と並行してドローンを活用した新たな取り組みにも注力しています。現場の定点撮影をおこなうため、ドローン事業部が現地に赴くこともあるそうで、大﨑さんも「操作が面白そうなので、自分でも免許を取りたい」と関心を示します。
ドローン事業部は、会社創業100周年を機に立ち上げられました。宮崎からスタートし、仙台や横浜といった各地に拠点を広げ、株式会社サイワークスとの業務委託にて「サイワークスドローンスクール」を開校。分校として、免許取得が可能な体制を整えています。
現在、ドローンは主に社内撮影や外壁・屋根調査の委託案件などに活用されており、まだ発展途上ながらも小俣さんは「もう少し広がりを見せたい」と期待を寄せています。
◆親子3世代で楽しめるアミューズメントパークを
建築、介護と2本の大きな柱で事業展開する小俣組。小俣さんが描く未来のビジョンには、「建築と介護の両面から社会に貢献していきたい」という強い想いがあります。
現在、サニーステージで重視しているのは、「医療・介護の安心安全」と「エンターテインメントとしての楽しみ」の2つ。この両輪をさらに拡大するため、小俣さんが目指しているのは、「親子3世代で楽しめるアミューズメントパーク」の構想です。
「今って核家族の社会になっていますよね。おじいちゃん、おばあちゃんと子どもの絆や愛情が、その場を通じて感じられるようなものを形にしたいです」と夢を語ります。この新たな施設は、有料老人ホームとは別の形で展開予定。あくまでサニーステージが監修という形で、同社のノウハウを活かしながら、「多世代交流の場」としての役割を果たすことを目指しています。
一方で、建築では地元に密着した堅実な運営を大切にしながらも、小俣さんにはさらなる目標があります。それは、「横浜の象徴的な建物を建てられるような会社でありたい」という想いです。若手社員の成長とともに「より大きなプロジェクトに携われる体制を整えたい」と将来を見据えていました。
<番組概要>
番組名:デジタル建設ジャーナル
放送日時:毎週日曜日 15:00-15:55
パーソナリティ:中辻景子・田久保彰太