モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。6月9日(金)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「サウジアラビアがスポーツ界にもたらす影響」。桜美林大学教授で、スポーツ経営学者の小林至さんに解説していただきました。
※写真はイメージです
◆スポーツ界で存在感を増す「サウジアラビア」
いくつかの国際的なスポーツにおいて、今、「サウジアラビア」は1つのトレンドとなっています。例えば、サッカー。過去に5回のバロンドール獲得を誇るクリスティアーノ・ロナウドは、去年12月サウジアラビア・リーグ1部の名門「アル・ナスル」に2年で2億ドル(約280億円)という破格の契約を締結し、マンチェスター・ユナイテッドから移籍しました。
さらに6月4日(現地時間)、レアル・マドリードに14シーズンにわたって在籍し、数々の優勝に貢献したカリム・ベンゼマが、年俸1億ユーロ(約150億円)の3年契約でサウジアラビアの「アル・イテハド」への加入を発表。彼は昨年、バロンドールも獲得しています。この夏、他にもサッカーセレブたちのサウジアラビア移籍が噂されています。
また、ゴルフの世界では、2021年にサウジアラビアの政府系投資ファンドが出資する形で新しい世界規模のゴルフツアー「LIVゴルフ」が誕生しました。トップ・プレイヤーの移籍などを巡ってアメリカの「PGAツアー」、ヨーロッパの「DPワールドツアー」と長く対立してきましたが、6月6日(現地時間)にLIVゴルフとPGAツアーが統合する形で合意したと発表。今後の動きが注目されています。
他にもサウジアラビアは、F1などのモータースポーツや、eスポーツの世界においても巨額の投資をしています。その背景にある狙いは何なのでしょうか?
ユージ:お話を伺ったのは、桜美林大学教授で、スポーツ経営学者の小林至さんです。こうしたサウジアラビアの動きの流れをたどると、約5年前に、原油頼みの経済からの脱却を図ろうとしたことが発端だそうですね。
小林:1つ象徴的な動きがあったのが、2017年です。サウジアラビアはソフトバンクと組んで、さまざまな分野への投資に踏み出しました。今まで石油産業一辺倒だったサウジアラビアですが、シェールオイルが廉価で手に入るようになったことによって、石油の調達先の多様化が世界的に起こっています。これが、サウジアラビアが投資に踏み出した理由の1つです。
もう1つは、世界的な脱炭素の動きです。こうしたことから経済の多角化を目指すなかで、スポーツが1つの投資先として考えられてきたということだと思います。今から5~6年前が1つのターニングポイントになっています。
もちろんそこには、サウジアラビア人のジャーナリスト殺害に、サウジアラビアの皇太子が関与していたというような噂があることも挙げられます。それに関して「サウジアラビアの国のイメージを転換したい」という、いわゆる“スポーツウォッシング”(※評判の改善のためにスポーツを利用して、大衆の興味を不都合なことから逸らすこと)の狙いもあったと思います。複合的な要因だと思いますね。国際的な関心を集め、しかも、いい意味で国のイメージアップを図るのに、スポーツは非常に良い投資案件になります。
ユージ:最大のパートナーであるアメリカとのイメージを良くするためというのも、大きなきっかけの1つだったそうですね。「人権問題」を抱えるサウジアラビアにとって、スポーツはとても良い投資先と言えそうです。
◆起こっているのは選手年俸の価格破壊
吉田:スポーツ界への投資資金の源泉となっているのは、やはり「オイルマネー」です。
小林:サウジアラビアの国営石油会社「サウジアラムコ」は、世界最大の利益企業です。去年の決算が発表されまして、純利益は約22兆円。そして、スポーツなどに投資するサウジアラビアの政府系投資ファンド(パブリック・インベストメント・ファンド)がありまして、その投資ファンドの資産は84兆円です。一言で言うと、無尽蔵です。84兆円を自由に投資できるお金として持っています。ちなみに日本の国家予算は114兆3,812億円になります。
ユージ:サウジアラビアのオイルマネーによって、スポーツ界の“地図”が塗り替えられるような状況になっていて、サウジアラビアの動きによって、今後のスポーツ産業に与える影響も大きいそうですね?
小林:(サウジアラビアがやっていることは)要するに価格破壊です。この価格破壊をどう見るか、ということだと思います。選手の年俸水準を一気に引き上げています。価格破壊が起きることによって年俸水準がぐっと上がると、そうでない(年俸を上げていない)チームがどうやってついていくか……。
特にサッカーの場合、いくらでも年俸が出せます。稼ぎが追いつくかどうかという問題がありますが、サウジマネーの場合は、必ず採算を合わせる必要がないわけです。(資産が)80数兆円あるなかで、今年200億円赤字が出ても、消化できてしまう話になります。そのときにリーグの形態を含め、どのような変化が起きるか、そこが1つ注目です。
それからゴルフにおいては、今のところサウジアラビアのLIVゴルフに移籍した選手は、みんなハッピーになりました。PGAツアーもLIVゴルフに対抗するために、いきなり賞金を3~4割も増やしました。合併することで、みんなが潤う状況になりますが、これがどこまで続くのかな、というところがありますね。
ただ、今の世界の状況でスポーツ産業側からすると、こういうお金が入ってくるのはウェルカムです。いただいているうちに、どんどん投資すればいいわけですから。世界のスポーツ産業は、ますますビッグになりますね。
ユージ:サウジアラビアの存在が、今後、世界スポーツ産業の発展における“潤滑油”になりえる、ということですね。一方で、日本もその恩恵を受けることができるか? というと、今のところ、なかなか難しい状況です。
例えば日本のプロ野球の場合、昔から外資が入ってこないように、ルールが定められているそうです。中東マネーを受け入れる準備ができるかどうか? 日本のスポーツ界の動きにも注目です。
ユージ、吉田明世
<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/one/