Cartoonがパーソナリティを務めるinterfmで放送中のラジオ番組「sensor」(毎週金曜19:00-22:00放送)。番組コーナー「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。
7月21日(金)のテーマは、「アファーマティブ・アクションの違憲判断について」。「NY Future Lab」のメンバーたちが、アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)や人種間の教育格差について語りました。
※写真はイメージです
◆最高裁が「アファーマティブ・アクション」は違憲と判断
数年前、とある日本の大学が入試において、男女で異なる合格基準を設定し「試験で同じ得点だった場合、男子学生を優遇して入学させる」という措置を取っていたことが判明して問題になりました。
アメリカではこうしたジェンダー不平等だけではなく、人種間の不平等が存在するため、こうした差別を是正して公平な社会を作るために、40年以上前に「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」という措置が取られるようになりました。アファーマティブ・アクションとは、社会的・構造的に差別されている少数派に対して、雇用や進学の場面などで優遇措置を取ることを指します。
アファーマティブ・アクションによって、特に白人女性の大学進学者が飛躍的に増え、今では4年制大学の学生数は女子のほうが上回るという結果に。少数の選ばれた白人男性のためのものだったアイビーリーグと呼ばれる一流大学群にも、女性やマイノリティが入学するようになり、ジェンダーギャップや人種間の格差も縮まりました。
しかし、先日の最高裁で「アファーマティブ・アクションは違憲」と判断され、全米に衝撃が走りました。「マイノリティを優先的に扱うのは、白人に対する逆差別」「マイノリティのなかでも比較的豊かで成績の良いアジア系に対する差別なのでは」という意見もあり、開始から40年以上が経ち「(十分に格差が是正されたため)アファーマティブ・アクションは、もはや必要ない」と考える人が過半数を超えているのが現状です。
しかし、Z世代の考えはそうではないようです。ラボのメンバーに話を聞いてみました。
メアリー:アファーマティブ・アクションとは、基本的にマイノリティの人々が大学に入学するのを支援しようとするもので、例えば黒人や女性に通常は入学を許可しないような大学にも、彼らが入れるようにする措置だよね。
ところが最近、最高裁はアファーマティブ・アクションは廃止されるべきだという判断を下した。これは黒人コミュニティのような、長年にわたり軽視されてきた人々に対する応急処置的な解決策だったのに。今やその応急処置さえもなくなってしまったのだから、とても悲しい。
シャンシャン:アファーマティブ・アクションによって、マイノリティが以前より大学に入学しやすくなったと言われているよね。でもこれはマイノリティに属する私のアジア系としての正直な気持ちだけど、大学入学に関しては、アジア系はマイノリティとはみなされていないのかなって(※)。つまり、(アファーマティブ・アクションが廃止されれば)これからはもっと多くのアジア人が、大学に入学できるチャンスがあるということなんじゃないかな……って。
※一部大学では、アファーマティブアクションによって黒人・ヒスパニック系は点数がプラスになる一方で、アジア系はマイナス配点になるため、アジア系は入試において人一倍点数を取ることが必要になる。
メアリー:それは違うよ。(アファーマティブ・アクション反対派は)入試においてアジア系が不利になっていることを前面に押し出して、そういうことが起こっているように感じさせているけれど、実際はそうではない。マイノリティよりも悪いのは、レガシー入学だよ。レガシー入学は、その学校の卒業生の子どもや孫、多くの寄付をした人を優先的に入学させる制度で、不公平を減らすならこちらをやめたほうがいいとも言われている。
ノエ:レガシー入学がよくて、アファーマティブ・アクションはダメって、理解できない。コネがある白人の富裕層が優先ということになるからね。この先10年、大学に行くのは、マイノリティよりも白人のほうが異常な増加を見せると思うね。
コネによる入学(レガシー入学)ができるのは、何世代にもわたって豊かさを享受してきた白人に限られており、長期にわたり事実上マイノリティを差別してきた一流大学の悪しき慣習です。「レガシー入学はいいのに、アファーマティブ・アクションが違憲と判断されるのはおかしい」というのが、ラボのメンバーの意見でした。
モデレーターでZ世代評論家のシェリーは「バーバード大学の学生の割合は43%が白人、アジア系が20%、黒人が9%です。黒人の割合が低いですが、これでもアファーマティブ・アクションがあっての数字です。アファーマティブ・アクションがなくなれば、白人の割合が増えていくのでは……と予想されています」とコメントしました。
(左から)ミクア、シェリー、ヒカル、ノエ、シャンシャン、メアリー/©NY-Future-Lab
◆社会の公平は、教育の公平から生まれる
実際に、アメリカで生活する白人と黒人とでは、どれほどの格差があるのでしょうか。ブルックリン在住のメンバーのミクアが現状を教えてくれました。ミクアは日本人の母、カリブ系の父を持ち、現在はニューヨーク市立大学で医師になるための勉強をしています。
ミクア:ニューヨークの公立学校に通っていたからだと思うけど、教育にはお金がいかに重要かというのがよくわかる。私が行った小学校、中学校、高校は基本的に生徒はみんな黒人やカリブ系で、アジア系や白人を見かけることは稀だった。
私の高校と中学には体育館がなかったし、講堂もなかった。だから4つのスポーツチームが、同じ廊下で練習をしていたの。女子バスケットボール、男子バスケットボール、女子陸上競技、男子陸上競技……。みんな廊下で練習していたよ。
「とくに私の学校はお金がなかった。私立校や、もっと豊かな地域の公立校に通えていたら、私の経験値はまるで違っていたと思う」と語るミクア。「だからアファーマティブ・アクションは重要だと思う」とも話します。
ミクア:私たちは同じ教育を受けているように見えるけれど、マイノリティの子どもたちは、白人の子どもと同じ学習経験をしていない。お金がないということは、課外授業もないし、補習も受けられないということ。だからアファーマティブ・アクションは重要だと思う。
子どもたちにとって、教育だけがもっといい環境に行くためのチャンスだから。黒人をあまり受け入れないアイビーリーグの一流校に入るチャンスが、アファーマティブ・アクションなの。貧しいマイノリティが悪い状況から抜け出すことができるチャンスは、教育だけ。だから、それが奪われるのは本当に悔しい。
日本の公立校の場合、全国的にどの学校でもさほど大きな環境の違いはありませんが、アメリカの場合は貧しい地区の学校は予算がなく、豊かな学校と比べると設備が悪かったり、学習内容が削られてしまったりすることもあります。
黒人家庭の平均所得は、白人家庭の約半分ということから、経済的な格差が存在することは明確です。そうした背景のなかで、なんとかマイノリティの生活を向上させるために「優秀な成績を収めた人を優先的に学校へ入学させよう」という意図でおこなわれた措置がアファーマティブ・アクションでした。
「アメリカ初の黒人大統領が誕生したのも、アファーマティブ・アクションがあったからだと言われています。ある意味、アファーマティブ・アクションは『努力すればトップになれる』という、アメリカンドリームそのものでした。それがなくなるということで、将来に悲観的な考えを持つ若者は少なくないです」と話すシェリー。
「日本もアメリカほどではないですが、学費が高騰していて、大学に行きたくてもいけない人が増えそうで心配です」ともコメントします。
最後にシェリーは「社会の公平は、教育の公平から生まれます。資本主義社会では、黙っていると格差は広がっていってしまう。是正には大きな努力が必要だということは覚えておいてほしいです」と呼びかけ、話を締めくくりました。
<番組概要>
番組名:sensor
放送エリア:interfm
放送日時:毎週金曜19:00-22:00放送
出演:Cartoon、シェリーめぐみ
番組Webサイト: https://www.interfm.co.jp/sensor/
特設サイト:https://ny-future-lab.com/