放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。10月12日(日)の放送は、民俗学者の島村恭則(しまむら・たかのり)さんをゲストに迎えて、お届けしました。
(左から)パーソナリティの小山薫堂、島村恭則さん、宇賀なつみ
◆民俗学はどんな学問?
今回は、民俗学者の島村恭則さんがゲストに登場しました。島村さんは1967年生まれ、東京都出身。関西学院大学社会学部教授であり、世界民俗学研究センター長も務めています。専門は現代民俗学や民俗学理論、ヴァナキュラー文化研究。著書には「みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?」「現代民俗学入門」などがあり、先月には新刊「これからの時代を生き抜くための民俗学入門」(辰巳出版)を刊行しました。
島村さんいわく、民俗学は「私たちの生活に一番身近なもの」といいます。「民とは人々、俗とは人間の本音の部分。つまり、生活の一番身近な部分を研究するのが民俗学です」と説明します。
島村さんが民俗学に興味を持ったきっかけは、幼稚園時代に通っていたカトリック系の園での「お祈り」でした。そこで祈る習慣を覚えた幼い島村さんは、町で見かけるお地蔵さんやお稲荷さんにも手を合わせるようになり、「祈り癖がついて、どこでも祈っていました」と振り返ります。
もうひとつ、幼少期から強く感じていたのが「死への恐怖」でした。町のなかでおこなわれていた葬式が怖く、息を止めて通っていたといいます。そんななか、本屋で偶然手に取った「日本の葬式」という本に出会い、「死のケガレ」という概念を知りました。「言葉がわかると、怖さは減っていくんです」と語り、恐れが知識へと変わる瞬間を経験したそうです。
その後、祈りや信仰について調べていくうちに「民俗学」という言葉に出会い、「これは自分のための学問じゃないか!」と確信。以来、「17歳から58歳まで、気づけば41年間、民俗学ばかり研究してしまいました」と笑顔で語りました。
◆「いただきます」の“いただく”に込められた意味
小山が島村さんに「いただきます」という言葉の由来を聞くひとコマも。「“いただく”は頂点の“いただき”ですよね。天皇陛下の余った御食事を我々はいただいているんだということで、『いただきます』と手をあわせているという説がありますよね」と質問すると、島村さんは「ありがたいものや大切なものは、頭より上に持ち上げる。これが“いただく”であり、山の頂と同じ意味なんです」と答えます。
さらに島村さんは、自身の故郷・高松の思い出も紹介。「今から50年くらい前までは、頭の上の“たらい”に魚を入れて、頭上運搬で売りに来ていました。この人たちのことを“いただきさん”と言うんですよ。頭の上に乗せることがいただきなんですね」と話し、言葉のルーツと生活文化が地続きであることを語りました。
続けて、島村さんは小山が脚本を手掛けた映画の民俗学に注目します。「おくりびと」では、「主人公のお父さんが亡くなったときに石を持って来て、それを主人公の妊娠している奥さんのお腹にあてるじゃないですか。あれがものすごく民俗学的なんです」と話します。その理由について、「石には魂が宿るという信仰があります。亡くなった人の魂が石に入り、その石を赤ちゃんのそばに置くことで魂が宿るという考え方があります」と説明しました。
島村恭則さん著「現代民俗学入門:身近な風習の秘密を解き明かす」(創元社)
◆民俗学に興味を持つ若者が増えている?
民俗学を学ぶ若い世代がSNSをきっかけに少しずつ増えているそうで、かつては生活の一部だった風習や信仰が、今では「日本のなかにこんなものがあるんですか?」と驚かれる“異文化”として受け止められているといいます。「それも民俗学への入り口としてはいい」としながら、島村さんは「民俗学は“回遊”の学問で、民俗学者は“回遊する生き物”なんです」と表現。
代表的な民俗学者・宮本常一が“地球4周分”にあたる距離を歩いたことを紹介し、フィールドワークが重要な学問だと説明します。「私も40年以上、各地を歩き回ってきました。一箇所に留まって何かを詳しく突き詰めることも大事なんですけど、行き詰まってくるんです。回遊することで拓けてくるものがあるので、民俗学イコール回遊性のある学問だと大学で話しています」と語り、民俗学の本質を伝えました。
番組のテーマである“手紙”の話題になると、島村さんは「宮古島の空き家」が忘れられないと語ります。大学4年生の夏、3ヵ月半ほど宮古島の空き家を借りて、民俗調査を実施。「古い文化が残っていたので、神様のお祭りやいろんな神話を調べていました。当時、万年筆で手紙やはがきをよく書いていました」と回想。「もう一度あの場所で手紙を書いてみたい」と笑顔で振り返っていました。
最後に、島村さんが「今、想いを伝えたい人」へ宛てた手紙を紹介。その相手は、大学時代のゼミの恩師でした。「2016年に87歳で亡くなられましたが、今さらながら出したい手紙があります」と語り、長年胸に秘めてきた感謝の思いを打ち明けました。
<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/post/
番組公式X:@sundayspost1