テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」レギュラーコメンテーターの玉川徹とフリーアナウンサーの原千晶がパーソナリティを務めるTOKYO FMのラジオ番組「ラジオのタマカワ」。「テレビではまだ出せていない玉川徹の新たな一面を発信!!」をコンセプトに、ビジネス、キャリア、マネー、カルチャー、エンタメ、音楽など、さまざまなジャンルをテレビとは違った角度から玉川が深掘りしていきます。
今回の放送では、上智大学 文学部 新聞学科 教授の奥山俊宏さんがゲストに登場。今、話題となっている公益通報者保護法や内部告発制度について伺いました。
(左から)パーソナリティの原千晶、玉川徹
◆公益通報者保護法について解説
番組では、今気になるニュースについて当事者や識者の方にお話を伺います。今回取り扱うニュースは「兵庫県の斎藤元彦知事が内部告発された問題」について。
内部告発者の保護法制に詳しく、9月5日(木)に開かれた兵庫県議会の調査特別委員会「百条委員会」の参考人として出席した、奥山俊宏教授から詳細を伺います。
兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラ疑惑などを内部告発された問題を巡り、百条委員会は斎藤知事や辞職した片山安孝前副知事ら側近3人を証人尋問しました。自身のパワハラなどを告発する文書を作成した職員(7月に死亡)を処分したことについて、斎藤知事は「適切だった」と発言。また、文書に記された複数の職員に対する叱責に関しては「合理的な指摘だった」などとして、パワハラをおこなったことを認めませんでした。
玉川:今回、もっとも大きな問題というのは、公益通報者を守れないどころか潰しにかかったんじゃないかという点なんですよね。
奥山:そうですね。これまで内部告発者に関する嫌がらせや弾圧、不利益な扱い、解雇するといった例はままありました。ですが、兵庫県庁のような何千人もの職員を抱える大きな組織のトップが、権限を使って組織をフルに動かして弾圧する事例はこれまでそれほどありませんでした。しかも、内部告発された方が自ら命を絶たれるという結末になるのは、世界においてもそんなにたくさんあることではないと思います。
玉川:マスコミでも大きな問題になっているんですけども、「公益通報」ということを今回初めて知った方も多いと思います。会社のなかにいて上の人から理不尽なことをされるのは昔からよくあった話ですけども、それは多くの人が我慢してきたわけです。そもそも、公益通報が制度としてできたのはいつぐらいですか?
奥山:2000年ごろに議論は始まっています。当時、大手自動車メーカーが欠陥を隠していた事件がありましたし、あるいは原子力発電所の原子炉内の部材にひび割れがあるのを隠していたというケースなどもありました。そうした事実が、その会社に勤めている人、あるいは業務委託を受けて仕事をしていた人による監督官庁への情報提供によって判明したんですね。不正が正された結果、多くの人が助かったかもしれない。そんな出来事が2000年から2003年ぐらいにかけて相次いで発覚しました。
玉川:なぜ公益通報と言うかというと、通報がなければ悪い状態が維持されてしまって、それが公益に反するということですよね?
奥山:そうです。公は私たち国民、一般の人たちを指していますけども、その利益を助けるための内部告発を公益通報と言います。内閣府の旧国民生活局の人が2002年に考え出した言葉です。もともとイギリスに公益情報開示の法律が1998年に成立しているんですけども、それを見倣って言葉や制度を導入し、2004年に国会で可決して公益通報者保護法となりました。施行されたのは2006年4月のことでした。
◆公益通報者保護法では告発者を守れない?
玉川:公益通報が社会のためになるというのはわかりました。その際にすごく大事なのは、公益通報者がリスクを抱えて通報するわけですよね。つまり、その人は潰される可能性がある非常に危険な状態であるわけですよ。告発者を守る必要があるから公益通報者保護法ができたと思うのですが、今って法律が不十分なんじゃないかと思っています。今回も告発者が守られなかったわけじゃないですか。
奥山:おっしゃる通りで、公益通報者保護法が実現できているというのは、ほんの気休め程度に過ぎません。今回、兵庫県は公益通報者を違法に弾圧した、違法に不利益な扱いをした、と疑われているわけですけども、今回のケースでは何の罰則もないんです。民間の事業者の場合でしたら消費者庁、監督官庁が行政指導をするといった法に基づく手続きがありますが、地方自治体あるいは国の機関については適用除外となっています。
玉川:なぜ除外なのでしょうか?
奥山:国の機関が地方自治体に対して指導するというのが、そもそも国と地方自治体との対等な関係に反するのではないかという考え方があります。今回のケースは体制整備義務の違反ということになりますけども、地方分権の趣旨への配慮もあって何の制裁も罰則、措置もありません。当事者同士が裁判をするという道もあるのですが、今回は当事者の方がお亡くなりになっていて難しいというところがあります。
玉川:法律を変えるとなると先の話になりますが、県は行政機関なので法の趣旨を真摯に受け止めて、それに対する体制をまず作らなければいけない組織だと思うんですよ。そこの部分の責任は当然あると思います。
奥山:責任はもちろんあります。知事を筆頭とする執行部に対抗する形で議会がありまして、執行部がやっているおかしなことを議会が正そうと動いているのが現在の状況です。
◆「記憶にない」発言の真偽に迫る
玉川:奥山さんは百条委員会を終えて、かなり厳しいことをおっしゃっていましたよね。
奥山:「独裁者が反対者を粛正するかのような陰惨な構図になってしまっている」と申し上げました。厳しい言葉だとは思いましたけども、あの日の午後から翌日にかけて百条委員会をずっと傍聴させていただきました。そこで知事や副知事、あるいは産業労働部長の証言を聞いて、やはりその通りだなと思う場面が多々ありました。
たとえば、今回の告発文書について、知事が、「だれがどんな意図で書いたのかを徹底的に調査しろ」と指示し、そこから調査が始まったわけですけれども、それから間もないころに総務部長が「教育委員会では、そういう案件については第三者に調査させることが多いんです」と副知事に言ったそうです。これはすなわち、第三者調査委員会を設置したほうがいいと副知事に進言した、ということです。
総務部長は教育委員会に勤めたことがあるそうでして、学校の教育の場ではいじめや体罰などが起きれば第三者委員会が作られるんですね。副知事は自分で知事に進言するのではなく、総務部長から知事に進言させたほうがいいと思ったのでしょう、「それを知事に言えや」と総務部長に助言したそうです。すると、そのあと総務部長から副知事に対し、「知事に言いましたが、知事は『第三者機関は時間がかかるよね』と否定された」と報告があったとのことでした。このように副知事は9月6日に百条委員会で証言しました。
その9月6日の午後に知事の証人尋問があり、その件について質問が出ました。斎藤知事は「第三者委員会をやりましょうとか、そういう話はなかったと記憶しています」と答えました。第三者調査委員会を設けるべきだと進言された記憶はないというのが知事の証言なのですが、詰められると、知事は「話には出たかもしれないですけど、積極的にやりたいという話でもなかった」とも言った。
おそらく、総務部長は「第三者委員会をやるべきだ」と言ったのではなく、「第三者委員会というやり方があるんですが」という程度の言い方だったのかなと思われ、それをとらえて、知事は「進言された記憶はない」と言ったのだと思います。
玉川:僕は斎藤知事の一連の答弁を聞いていると、非常に官僚的なニュアンスを感じるんですね。僕も取材で国の官僚と一対一でインタビューしたことを思い出すんですけど、法律的に言質を取られないように逃げて乗り切ろうとするんですね。
斎藤知事も、もともと総務官僚ですよね。「記憶にない」と言っておけば嘘にはならないわけですよ。はっきりしたことを言ってしまうと、それに対する反論が来てしまうから。国会の証人喚問だと「記憶にございません」は定番なんですよ。今回の百条委員会もそうで、記憶がないと言えば済むんです。これも法的にこれでいいのか、と思うところです。
奥山:記憶にないと言いつつも、結局詰められたときに「話には出たかもしれない」と認めておりますので、私から見ると、彼は誠実に答えているとは思いました。彼は総務部長から第三者委員会の話をされたとき、やるべきだという「進言」だとは受け止められなかった。
玉川:それはちょっと違うかなって僕は思いますね。公益通報があって、わずか数日後には状況を把握して知事は動きだしているわけです。当然ながらその素早い対応は、知事を続けていくうえで障害になると思ったからこそなんです。いわゆるやってはいけない告発者探しも始めているわけですよね。つまり、この問題の重さは十分わかっているわけです。
なるべく早くやりたいから、第三者委員会なんかないほうがいいという話の流れもあったので、進言されれば「それはまずい」と彼は思ったんじゃないかなと当然推認できるんです。
あれだけ頭のいい彼が、それを覚えていないわけがないです。記憶にないと言ったのは整合性のために言ったんじゃないかなと僕は思います。
<番組概要>
番組名:ラジオのタマカワ
放送エリア:TOKYO FM
放送日時:毎週木曜 11:30~13:00
パーソナリティ:玉川徹、原千晶