笹川友里がパーソナリティを務めるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。7月11日(土)の放送は、先週に引き続き、富士フイルムホールディングス株式会社執行役員 チーフ・デジタル・オフィサー(CDO) ICT戦略部長(現、富士フイルム株式会社フェロー)の杉本征剛(すぎもと・せいごう)さんが登場。エージェント型の生成AI利用環境や、DX人材の育成方針について話を伺いました。
(左から)杉本征剛さん、笹川友里
杉本征剛さんは、1989年に九州大学大学院修士課程を修了後、富士写真フイルム株式会社(現、富士フイルム)へ入社し、30年以上にわたり、システム開発やAI/ICT分野の研究に従事。2016年にはインフォマティクス研究所(現、イメージング・インフォマティクスラボ)を立ち上げ、副所長に就任。2019年にはICT戦略推進室を設立し、同年11月に富士フイルムホールディングスおよび富士フイルムのCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)に就任。2020年に執行役員、2024年には富士フイルム株式会社の取締役に就任。富士フイルムホールディングスと富士フイルムのCDO、ならびにICT戦略部長を兼務。現在は富士フイルム株式会社フェローを務めています。
◆AI活用を広げる富士フイルムの取り組み
富士フイルムでは、独自に開発したエージェント型生成AI利用環境「AIHub」を全社で展開しています。社員はパソコンからブラウザを起動するだけで安全に利用でき、現在はグローバル約7万人の従業員が活用しています。
「AIHub」の特徴として、杉本さんは、「AIエージェントとなると、ITの専門家が作るイメージがあるかと思いますが、『AIHub』は非IT部門の一般従業員の方も、自身の目的に合わせて簡単にAIエージェントを作成することができます」と解説します。その実用例として、翻訳や文章のブラッシュアップのほか、市場に出る前の製品やシステムのテスト項目をAIに作成・実行させるなど、さまざまな業務で活用が広がっていることを紹介します。
同社では生成AIの活用をさらに促進するため、毎年「社内コンテスト」を開催しています。後藤禎一代表取締役社長・CEOの発案で始まった取り組みですが、杉本さん自身も「生成AIブームを一過性の流行、トレンドで終わらせたくない」という思いから継続しているといいます。
また、このコンテストを“新しい技術を使って、自分の仕事をどうスリムかつストロングにできるのか”を自発的に考える場であると位置づけ、「コンテストを通じて、『こんな面白い使い方ができた!』という現場の熱量を可視化して共有したいと思いました。面白いアイデアは、別の部門の刺激にもなります。そんな社内のコミュニティのなかで、組織の壁を溶かすネットワーク効果を巻き起こすことも狙いとしています」と明かします。
なお、今年のコンテストでは、実際の業務で活用されている事例が数多く集まりました。そのなかで、杉本さんは真の業務変革の解決策として、AIを活用しているアイデアが増えたことが印象に残っていると言い、「AIの活用が、いよいよ現場の業務に根差した活動になっていることをうれしく思っています」と変化を実感します。
◆富士フイルムが求める3つの「DX人材」
続いて、“DX専門人材の育成”の話題に移ります。富士フイルムでは「ハイブリッド人材」「DX活用人材」「IT専門人材」の3つに分類し、それぞれの役割に応じた育成を進めています。
事業部から選抜された「ハイブリッド人材」は、材料や医療、生産など各分野の専門知識にITスキルを掛け合わせ、DXを牽引する役割を担います。全従業員を対象とする「DX活用人材」は、デジタルツールやデータを活用して業務改善を進める人材です。杉本さんは、「全従業員が『AIHub』を使ってAIエージェントを作れるようになることを目指しています」と目標を掲げます。そして、「IT専門人材」については、システム開発やセキュリティ、インフラ構築といった技術面からDX推進をサポートできる人材育成を目指します。
人材育成では、一人ひとりのスキルや成長状況を可視化し、最適な育成につなげる仕組みも整えています。社員は、経済産業省と独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が策定した「デジタルスキル標準(DSS)」をベースとした目指すべきDX人材像に必要なスキルと、自身の現在のスキルとを比較したうえで、不足している能力を鍛える社内研修やeラーニングを活用した育成プランを作成します。
そのなかで、笹川が注目したのが、事業部から選抜されたハイブリッド人材を対象とした「DXブートキャンプ」です。このプログラムについて、杉本さんは「わりと短期間で結構ハードなトレーニングですけれども……(笑)」と前置きしつつ、「3ヵ月程度の期間で、実際に事業部が抱えているDXの重要課題を持ち込んでもらいます。そのうえで、ICT戦略部が初動の部分をサポートしてプロジェクト形式を組み、課題解決へ向けて動き出します。そして、プロジェクトの成果が見込めそうであれば、3ヵ月を超えてもプロジェクトを継続して、成果が出るまで推進します」と説明します。これにより、研修形式で知識経験を得るだけではなく、実課題を解決する成果も得られるところが特徴です。
これには、笹川も「やっぱり、座学だけではイメージしきれない部分もあったりするなかで、自分の業務に紐づいて3ヵ月も集中して勉強ができるって、すごく理想的な環境だと思います」と太鼓判を押します。
◆危機が育てた変革への姿勢
写真フィルムメーカーとして創業し、現在ではヘルスケアや半導体材料など幅広い事業を展開する富士フイルム。その大きな変革を支えてきた社員のマインドについて、30年にわたり、同社でキャリアを重ねてきた杉本さんは、「まったく別の新しいマインドに生まれ変わったというよりは、『私たちがもともと持っていたマインドの本質が、時代に合わせて発現し続けている』というふうに捉えています」と語ります。
その背景には、デジタル化によって写真フィルム市場が急激に縮小し、本業を喪失するという危機を乗り越えてきた歴史があると言い、「この危機を乗り越える過程で得られた教訓と経験が、当時の経営層だけでなく、従業員一人ひとりに対しても危機感を植え付けたのだと考えています」と振り返ります。
社員が情熱を注ぐ対象も、時代とともに変化しています。かつては“良い写真・良い映像体験”に向いていました。それが、現在ではAIを活用した診断支援やマテリアルズインフォマティクス(AIや機械学習などを活用し、新材料の探索・開発プロセスを革新する手法)などを通じ、「社会課題の解決へと、ごく自然に従業員のマインドがシフトしていると思っています」と言います。
このように、業績が好調な現状にも慢心せず、「次の大きな変化に備えて、生成AIなどのデジタル技術を迅速に取り入れて、自らビジネスモデルを変革していく……というマインドにつながっているのだと思っています」と話していました。
過去の危機を糧に変化を受け入れ、自ら変革を続ける従業員一人ひとりの姿勢が、今の富士フイルムの成長を支えています。
次回7月18日(土)の放送は、Umios株式会社常務執行役員の小関仁孝さんをゲストにお迎えします。お話を伺います。2026年3月に「マルハニチロ」から「Umios」へと社名を一新した経緯や、現在取り組んでいるDX推進についてなど、貴重な話が聴けるかも!?
----------------------------------------------------
この日の放送をradikoタイムフリーで聴く
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
----------------------------------------------------
<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/