モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。5月2日(木)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「JR東日本グループによる新たな金融サービス『JRE BANK』開始! 鉄道会社がインターネット銀行を始める理由とは?」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。
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◆JR東日本が始めるデジタル金融サービスとは?
JR東日本は5月9日(木)からデジタル金融サービス「JRE BANK」を開始。利用者はインターネットで専用口座を開設すれば、振り込みや預金、住宅ローンなどのサービスに加え、利用状況に応じ、鉄道利用に関するさまざまな特典が受けられます。
※現在(5月10日時点)、多数の口座開設申込が殺到しているため、1日に申込受付できる上限を設けているようです。詳細は「JRE BANK」公式Webサイトをご確認ください。
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吉田:こうした鉄道会社の銀行サービスは、去年の秋に京王電鉄も始めています。そこで今朝は“鉄道会社のインターネット銀行”について塚越さんに解説してもらいます。
ユージ:JR東日本の「JRE BANK」はどのようなものでしょうか?
塚越:「JRE BANK」はJR東日本のブランド名ですが、楽天銀行が代理で提供する銀行サービスを利用します。JRE BANKアプリもしくは、Webサイトから口座開設や振込、また定期預金や外貨預金、JCBと提携したブランドデビット機能付きキャッシュカードや住宅ローンなど、楽天銀行の銀行サービスが利用可能となります。
吉田:既存の銀行と同じサービスが受けられるわけですが、JRE BANKならではの特徴はありますか?
塚越:JR東日本にはSuicaとビューカードという決済システムがありますが、ここに新たに「JRE BANK」が加わります。大きな特徴としては、JRE BANKを利用した取引によって、JR東日本グループ共通ポイントの「JRE POINT」が獲得できて、これをサービスや商品に利用できます。
さらに大きな特典がいくつかあります。例えばJRE BANK口座に50万円以上預金すると、「えきねっと」で申し込み可能な鉄道運賃が4割引になるチケットが年2枚提供されます。
他にもSuicaグリーン券を年に4回、最大6,060円相当が無料で利用できる特典などもあります。銀行預金の金利が年率1%以下という状況では、日頃からJR東日本を使う人には魅力的な特典といえるでしょう。JR東日本は早期に100万口座獲得が目標とのことです。
ユージ:僕は毎週、新幹線に乗っていますが、そういう人はポイントもかなり溜まりそうですし、何か特別なことをしなくても、移動という生活の手段でポイントが貯まるのは大きいですね。
塚越:そうですね。ただ、JRE BANKのホームページの特典に関する注意事項には、「本特典は、予告なく変更もしくは中止し、または内容を変更する場合があります」と書いてあります。気付いたらキャンペーンが終わっていると、ユーザーからのクレームにもなりかねません。そのため特典などの終了時期は明確に掲示する必要がありますし、私たちユーザー、リスナーの皆さんも、その点はよく調べてから検討したほうがいいと思います。
◆人口減少を見据えて新たな財源確保へ
吉田:では、鉄道会社がインターネット銀行を始める理由は何なのでしょうか?
塚越:鉄道業界は、コロナ禍で大きく赤字になったということが理由の1つとして考えられます。また日本は人口減少に向かっているので、これからは別の手段で収入源を確保する必要があります。
さらに、昨今はファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)をかけ合わせた「フィンテック」という言葉が盛り上がっていますが、実際にさまざまな新しい金融サービスが登場しています。
JR東日本も新たな金融サービスを手掛ければ、鉄道利用者の消費や資産に関するデータもこれまで以上に得られるので、ニーズを把握して新しい事業に活用できると考えたのだと思います。
JR東日本を利用するユーザーは非常に多いので、乗客の生活圏とマッチした新規ビジネスを展開して、いわゆる「経済圏」の囲い込みをこれまで以上に加速しよう、という狙いがあります。
今回は楽天銀行のサービスを利用していますが、楽天はまさにさまざまなサービスを連携して、「楽天経済圏」を作っている企業です。こうしたユーザーデータの活用を怖いと思うかどうかは人によりますが、多くの企業がこうした経済圏の獲得を考えています。
また、ダイヤモンド・オンラインの記事によると実際、去年の秋に京王電鉄が住信(すみしん)SBIネット銀行のサービスと提携して開始した「京王NEOBANK」では、若年層や子育て世帯といった、これまで関わりが薄かった顧客層との接点ができたことで、結果的に自前の住宅ローンの提供が可能になった、といったメリットもあるようです。このように、既存の銀行事業者と提携して、顧客に金融サービスを展開する企業が増えています。
◆儲けが出れば“赤字路線”のインフラ維持に役立つ可能性
ユージ:鉄道会社のインターネット銀行が持つ可能性と課題は何でしょうか?
塚越:まずは課題として、既存の銀行と提携するといっても、マーケティングや広告にもお金がかかりますし、何より金融はさまざまな規制があるので、簡単に儲けにつながるかといえばそんなに簡単なものではないという点があります。
次に、身も蓋もない話ですが、やはり「どのように儲けるか」ということ。そして、それ以上に「儲けの配分」が鍵になると思います。鉄道は公共的なインフラですが、この番組でも取り上げてきたように、地方は赤字路線が問題になっています。例えばフィンテック関係で儲けて、その儲けを「赤字の事業に補填しよう」ということになるのかどうかも論点だと思います。
JR東日本は関東だけではなく東北、山梨県、静岡県、長野県の一部も入っています。その上で、こういったサービスがある程度成功するとなると、他の鉄道でも活用する流れになると思います。そうなると生活者にとってもいいことが起きます。儲けを出して赤字の事業に補填していく流れができて、長期的に我々の「公共インフラ」を守るためのサービスになってくれるといいなと思います。
吉田明世、塚越健司さん、ユージ
<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世