作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。9月27日(日)の放送は「村上RADIO~くたばれ、アカデミー賞~」をオンエア。今回の放送では、「アカデミー主題歌賞にノミネートされながら、惜しくも受賞を逃した名曲」を特集。受賞作の影に隠れながらも今なお世界中で愛され続ける1960年代の名曲を中心に、村上さんこだわりのアナログ盤音源でお届けしました。ヘンリー・マンシーニやバート・バカラックといった巨匠たちの楽曲をはじめ、賞の裏側にあるドラマや村上さん自身の思い出、さらには昨今話題の「AIと創作活動」についての貴重なトークまで、時代を超えて愛される音楽の魅力にあふれたひとときとなりました。
この記事では、オープニングトークと前半3曲について語ったパートを紹介します。
「村上RADIO」
こんばんは、村上春樹です。今夜は「くたばれ、アカデミー賞」というタイトルで、アカデミー主題歌賞にノミネートされながら、惜しくも受賞を逃した名曲を集めてお送りします。こんな素敵な曲が受賞を逃すなんて……と首をひねってしまう例がたくさん出てきます。まあ、賞なんていうのは、どんな賞にしてもあくまで水物ですから、そういうこともしばしば起こります。めでたく賞はとったけどそのうちに忘れられていく曲、惜しくも受賞は逃したけど人々の記憶に残り、長く歌い継がれていく曲、人と同じように音楽にも様々な運命があります。
<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」
この「くたばれ、アカデミー賞」といういささか乱暴なタイトルは、僕が思いついたものじゃなくて、スティーブ・ローレンスが1963年にリリースしたアルバムのタイトルから借用したものです。LPの原題は「Academy Award Losers」という、いたってシンプルなものなんですが、日本で発売されたときはこういう元気なタイトルになっていました。
このアルバムには、1950年より以前に受賞を逃した名曲たちが入っていますが、今夜は1960年代に受賞を逃したloser(ルーザー)たちを中心に取り上げたいと思います。僕の好きな曲がずらりと揃っています。お楽しみください。
◆Jack Jones「Call Me Irresponsible」
さて1960年のアカデミー主題歌賞は「日曜はダメ」が、1961年には「ムーン・リヴァー」が、1962年には「酒とバラの日々」がとっています。どれも文句なしの名曲で、異議を唱える余地はありません。順当な受賞です。
いささか問題になるのは、というか僕が個人的に異議を申し立てたくなるのは、1963年です。この年の主題歌賞は「パパは王様」という映画の主題歌「Call Me Irresponsible(ぼくは無責任)」がとっています。落選したのがヘンリー・マンシーニの「シャレード」です。
「Call Me Irresponsible」もジミー・ヴァン・ヒューゼンが作曲したなかなか好ましい曲なんだけど、この曲を知っている人は今となっては、たぶんそんなに多くはないでしょうね。ちょっと聴いてみてください。ジャック・ジョーンズが歌います。「Call Me Irresponsible」。
◆Sarah Vaughan「Charade」
◆Frank Sinatra・Count Basie And His Orchestra「More (Theme From Mondo Cane)」
それに比べて、「シャレード」は今でも多くの歌手に取り上げられ、よく耳にする曲です。エバーグリーンになっているっていうかね。マンシーニは2年続けてオスカーをとっていますので、「3年連続でヘンリーさんが受賞というのはちょっとなあ……」と、あるいは審査員たちが忖度したのかもしれませんね。
それからこの年には「モア」もノミネートされました。『世界残酷物語』というイタリア映画の主題歌です。これも間違いなく後世に残る名曲ですね。作曲者はリズ・オルトラーニ。
続けて聴いてください。1963年度の気の毒な落選曲2曲。サラ・ヴォーンの歌で「シャレード」、そしてフランク・シナトラの歌で「モア」、このバックはカウント・ベイシー楽団、アレンジはクインシー・ジョーンズです。
<番組概要>
番組名:村上RADIO~くたばれ、アカデミー賞~
放送日時:9月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/