脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。
TOKYO FMとJFN系列38局の音声配信プラットフォーム「AuDee(オーディー)」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。
この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに、茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。
9月20日(土)の配信では、リスナーから寄せられた“ゾーンに入ること”に関する質問に答えました。
パーソナリティの茂木健一郎
<リスナーからの質問>
私は趣味で将棋を楽しんでいる60代です。序盤はのんびり指しているのに、終盤になると急に集中力が研ぎ澄まされるような感じがして、時間の感覚もなくなります。あの「ゾーンに入る」ような感覚は、脳のどんな働きによるものなのでしょうか? 年齢に関係なく、まだこんなふうに夢中になれる自分の脳を誇りに思いました。
<茂木の回答>
素晴らしいですね。集中力が研ぎ澄まされて、時間の感覚がなくなる、ゾーンに入る。これは脳科学、認知科学では「フロー体験」(※活動に完全に没頭して、時間の感覚や自己意識を失い、高い集中力と充実感、幸福感を得られる心理状態)と呼ばれていて、ハンガリー出身のアメリカの心理学者・チクセントミハイさんがずっと研究されてきたんです。
このゾーンに入る、フロー状態というのは、脳に対する負荷が高いときに起こるとされています。負荷が高くて、しかもパフォーマンスが最大化したとき。終盤というのは、もう1つの駒の動きで勝敗が分かれる非常に緊張する局面ですよね。そこでリスナーさんの脳が最高に集中して、ゾーン、フローの状態になっているわけです。ただ、具体的にどういう状態なのかということについては、実はまだ脳科学でも十分に解明されていないんですね。
1つ言えるのは、前頭葉の集中力の回路が関与していること。そしてもう一方で「引き算」なんです。脳の回路はいろいろなことをしているんですが、ゾーンに入ったとき、集中力が最高に高まったときというのは、それ以外の回路の活動が下がるんです。そのことによって、時間の感覚をモニターしている回路の活動も低下するし、「自分」という感覚もなくなる。自分が自分であることを支えている回路も静まって、将棋だけに集中するという状態。ある意味では、瞑想にも近いんですね。
そして「年齢に関係なく、まだこんなふうに夢中になれる自分の脳を誇りに思った」と書いてくださいましたけれども、本当にその通りだと思います。これは人工知能(AI)時代においてもとても重要なことで、今ここにいることを心から楽しんでいらっしゃる。盤の手触り、読みのスリル、すべての感覚がリスナーさんの脳を輝かせているんです。
脳の仕組みから言うと、そうやって集中しているとアンチエイジングになるんですよ。将棋の場合は戦略を考え、パターンを見極め、先を読む遊び。記憶力という意味では海馬や側頭連合野、空間のパターン認識では頭頂葉、そして集中して次の一手を考えるという意味では前頭前野が活動します。ですから、ある意味では将棋というのは「脳の総合スポーツ」なんですね。
何歳になっても将棋を楽しんでいただくと、脳がゾーンに入り、さまざまな回路が最高に活動して集中できる。そして同時に瞑想のような「引き算」の効果もある。ぜひこれからも将棋を続けて、素晴らしいゾーン体験を楽しんでいただきたいと思います。
さらに、アンチエイジングにもなりますし、お子さんやお孫さん、若い世代の方と一緒に指すと、将棋という文化を伝えることにもなります。いろんな意味で楽しみが広がるのではないでしょうか。
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音声版「茂木健一郎のポジティブ脳教室」
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<番組情報>
番組名:茂木健一郎のポジティブ脳教室
配信日時:毎週土曜 22:30配信(予定)
パーソナリティ:茂木健一郎