作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。1月26日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話6~」をオンエア。好評の「村上の世間話」シリーズは、村上さんが何気ない日常の中で体験したエピソードを、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届け。この記事では、オープニングトークと、元ソビエト連邦の国土防空軍の軍人・ヴィクトル・ベレンコについて語ったパートを紹介します。
こんばんは。村上春樹です。村上RADIO、今夜はまたまた村上の世間話、これで6回目になります。あくまで気楽な話なので、あくまで気楽に聴いてください。素敵な音楽もかかります。日曜日の宵(よい)、脳に溜まったしこりみたいなものを洗い落としていただけると嬉しいです。でも、うっかり脳の本体まで落としちゃわないでくださいね。脳が減ってくると、「脳減る賞」がもらえちゃったりしますので……みたいなだるい冗談を言っている場合じゃないんですけどね。ニャーオ(猫山)
<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」
明けましておめでとう、お餅が焼けたよ……なんて気楽なこと言っているうちに、気がついたらもう1月も終わりかけているんですね。時間の流れの速さにうまくついていけなくて、困ってしまいます。その昔、「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く?」という交通標語がありましたが、本当に時間はそんなに急いで、いったいどこに行くんでしょうね。ちょっと呼び止めて「どこに行くんですか?」とか聞いてみたいけど、きっと答えてはくれないでしょうね。でもそれはそれとして、日本ってそんなに狭いんですかね? けっこう広いような気がするんだけど。
◆Fugees (Refugee Camp)「Killing Me Softly With His Song (Live At The Brixton Academy)」
まず1曲聴いてください。
フージーズが歌います。「Killing Me Softly With His Song」。
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今を遡る1976年のことですが、当時のソビエトの空軍中尉、ヴィクトル・イヴァノーヴィチ・ベレンコさんが当時最新式のミグ戦闘機25を操縦して北海道に亡命しました。函館空港に強行着陸したんです。機体はアメリカ軍と自衛隊に徹底的に調査されたあとソビエトに返還され、本人はアメリカに亡命したのですが、一昨年の9月に76歳で亡くなられました。
その死亡記事を見ていて、はっと思い出したのですが、その亡命事件があったすぐあとで、札幌のとあるストリップ劇場が「ベレンコ中尉もこれででれんこ」という看板を出したという記事をどこかで読んだことがあります。しかし、しょうもないことをよく覚えているもんですよね。半世紀近く前のことなのに。
でれんこ。だらだらとした気合いの入ってない状態のことですね。「でれんこでれんこ歩いてんじゃねえや」みたいな使い方をされます。でも僕は、そのときまでこの言葉を耳にしたことが一度もありませんでした。調べてみると、茨城弁あるいは栃木弁ということです。反対語は「てってこてってこ」というんだそうです。
しかし、なかなか可愛げのある言葉ですよね。「今日はでれんこしちゃおうかな」とか、つい使いたくなります。ちなみにベレンコさんはアメリカで市民権を与えられましたが、ソビエトの工作員による暗殺を恐れて、名前や居住地をしょっちゅう変えて生活していたんだそうです。あまり、でれんこできなかったんでしょうね。気の毒です。
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1月26日(日)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2月3日(月)AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:村上RADIO~村上の世間話6~
放送日時:1月26日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/