モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。6月8日(木)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「AIアイドルのブレイクと今後の課題」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。
※写真はイメージです(AI人物素材)
大手出版社の集英社は5月29日(月)、AIで画像生成された架空のグラビアアイドル「さつきあい」の写真集を発売。実在するアイドルの写真と見間違えるほどの出来栄えが話題になったものの、集英社は6月7日(水)に「AI生成物の商品化については、社会的な議論の深まりを見据えつつ、より慎重に考えるべきであったと判断するにいたりました」と声明を発表。同写真集の販売中止を決定しました。
◆AIグラビアアイドル写真集…批判を受けて販売中止に
吉田:集英社とは別の企業が作成した“実在しない”19歳の港区女子「神宮寺藍」のTikTokは100万回再生を突破しています(放送当時)。彼女もAIが画像生成した、AIインフルエンサーです。
AIが生み出したリアルなキャラクターは、確実に多くの方に受け入れられている一方で、今回、集英社が判断したように、まだまだ課題があることが示されました。この問題について私たちは、どのように考えるべきなのでしょうか?
◆そもそもAIの画像生成とは?
ユージ:AIによる画像生成で、実在するかのようなクオリティの画像を作る。そもそも、AIの画像生成とは、どのように作られるのですか?
塚越:画像生成AI技術が進歩する前から、(コンピューターグラフィック(以下、CG)などによる)被写体の「修正」技術は数多く存在しました。最近、話題を呼んでいるAI画像生成ソフトは「Midjourney(ミッドジャーニー)」や「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」が挙げられますが、こうしたソフトはプロンプト(文章で指示)すると作成してくれます。
ただ、「かわいい○○」や「髪の色は何色」といった指示だけだとありきたりになるので、(ポーズやシチュエーション、背景や色合いなどを指定するなど)より細かな指示が重要です。その指示を専門にビジネス化する方もいまして、最近は技術が発展しています。
◆増加する「AIタレント」…その理由は?
吉田:CGでリアルな人間の画像を作ることは、これまでにも膨大なチャレンジがおこなわれてきました。なぜ、ここへ来て、実在するタレントさんと見た目が遜色ない「AIタレント」のデビューが増えているのでしょうか?
塚越:やはり技術が向上し、かつコストがかからなくなったことが大きいです。少し前までは、コンピュータで描かれた人間の画像は、やはりどこか合成っぽく、気持ち悪く感じてしまいました。こうした状態を「不気味の谷」(※)と言います。
最近は、不気味の谷を超えて違和感のないリアルな画像が出てくるようになりました。しかも、生成AIを使うと簡単に作れてしまうことで大人気になっています。
※「不気味の谷」……人間の心理現象の1つで、ロボットなどの人工物の造形を人間の姿に近づけていくと、かなり似てきた段階で、見る者に急激に強い違和感や嫌悪感を抱かせるとされる現象。
ユージ:集英社が下した今回の判断を塚越さんは、どう考えますか?
塚越:今回、集英社の写真集について、いろいろな批判があったかと思うのですが、それにうまく回答できるほど、まだ議論が成熟していない状態です。そのため集英社は一旦引くという判断だったのかなと思います。
しかし、小規模なところでは画像生成AIがどんどん使われていく可能性があり、さきほど話した「神宮寺藍」もTikTokなどSNSで人気を集めています。話題になった当初は、彼女を本物の人間だと信じた方も多かったのですが、実際はAIで生成されたものでした。
◆話題になるAI人物画像…「女性」が多い理由は?
吉田:話題になる画像は「女性」が多いと感じますが、なぜでしょうか? 今後、変わっていくのでしょうか?
塚越:この「神宮寺藍」のケースだと、もともとぽっちゃり体型だったのが、ダイエットして30kg痩せたという架空のストーリーをbefore/afterの写真つきで投稿しています。こうしたストーリー設定もあって、女性ファンに好評だったということです。
ネットだときれいな女性の画像は男性人気が多く、アダルトなものを含めて広告に利用できるという背景もあります。ですが、今回のように、やり方によっては男女に関わらず興味を持たれました。要するに、「人の歴史=物語」を含めて商品化できます。ただ、それを良いと思うのか、なんだか気味が悪いと思うかが今後の論点かなと思います。
◆課題は著作権問題、若年層のメンタルケアなど
ユージ:AIが作るリアルなキャラクターについて、今後の課題は何でしょうか?
塚越:ポーズのバリエーションが少ないなどの問題がありますが、これは技術的に解決できます。次に著作権です。(AIの学習元になったイラストや写真に)“似ている”、つまり著作権を侵害している可能性があるというのは生成AI全般の問題で、これから議論されると思います。
個人的には、10代の女性はSNSできれいな子ばかりを見てしまうと、自分のメンタルにダメージを受ける方が多いという点が気になります。昔から、FacebookやInstagramなどを見過ぎると、特に若い10代の女性はメンタルにダメージを受けてしまうという調査があるんですよね。
吉田:(SNS上のきれいな人の画像に憧れて)無理なダイエットで拒食症や過食症になってしまったり、そういうことも不安ですよね。
塚越:僕の授業でもこういう話をすると、「私もちょっと(メンタルが)つらくなってしまって、SNSを見たくなくなりました」と話してくれる生徒もいました。なので若い方には、「あくまでネットの世界の話」と、自分を見失わないようにしていただきたいですし、こうした部分の対策も今後必要になるかな、と思います。
吉田明世、塚越健司さん、ユージ
<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/one/