放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。11月9日(日)の放送は、左官職人の久住有生(くすみ・なおき)さんをゲストに迎えて、お届けしました。
(左から)パーソナリティの小山薫堂、久住有生さん、宇賀なつみ
◆ガウディの建築に衝撃を受けて左官の道へ
今回はスタジオに、左官職人の久住有生さんをお迎えしました。1972年、兵庫県淡路島生まれの久住さんは、祖父の代から続く左官の家系で育ち、3歳のころからコテを握っていたといいます。高校3年生の夏、スペインでガウディの建築に触れた経験が、左官としての道を歩む転機となりました。
高校卒業後は各地の親方に師事し、23歳で独立。アート表現にも挑戦し、ニューヨークの国連本部で開催された国連加入60周年記念行事ではインスタレーション作品を手がけるほか、G7広島サミット会場の施工なども担当するなど、国内外で幅広く活躍しています。
久住さんは「ご依頼をいただいてあちこち行っています」と、海外からの依頼も多くこなしていると話します。日本と海外の土壁の作り方の違いについて尋ねられると、「もともとは朝鮮半島や中国から伝わったものですが、日本独特の四季や気質に合わせて作るうちに、より繊細で洗練されたものになったといいます」と説明します。
幼少期から左官に触れてきた久住さんですが、当時は左官の道に進むことを嫌がっていたといいます。「父親に子どものころから作業現場に連れて行かれ、それこそ弟子のように手伝っていました」と久住さん。高校時代にはパティシエになることを夢見て父に相談したところ、「世界を見て来い」とヨーロッパ一人旅の機会を与えられたとのこと。
旅の最後に訪れたスペインのサグラダ・ファミリアに圧倒され、「100年前から作り続けられている建物と、施工中の職人たちの熱気、世界中から集まった人々の熱狂に感動しました」と振り返ります。
帰国後もパティシエの夢を諦めきれなかった久住さんですが、父から「ケーキは食べたらなくなるけど、左官は死んでも残るで」と言われ、左官の道に進むことを本格的に決意しました。「最後の決心はそのときでしたが、ガウディが僕の左官としてのはじまりだったと思います」と語ってくれました。
◆コンマ数ミリのズレにまで気を配る左官の仕事
久住さんは土壁の魅力についても語ります。「今の世の中の建築は、どうしても工業製品が多くなりがちです。でも土壁の材料は、自然界で数千年とか数万年かかってできたものがほとんどなんですよ」と、その奥深さを説明します。
土と藁を混ぜ、水で練って塗りつける土壁は、一度風化しても練り直せば元の状態に戻ります。その長い年月をかけて育まれた素材そのものの力こそが、土壁の魅力だと久住さんはいいます。「人も自然の一部だと思うんです。その近さが、安らぎや柔らかさ、穏やかさを感じさせてくれるのではないでしょうか」と、手仕事で形作る左官の技術と、自然素材が持つ調和の美しさを伝えました。
海外での左官の仕事は、「土探し」からスタートします。海外では土の輸出ができないため、現地で土や砂、砂利を探して制作を始めます。「山の形状や断面を見て、この辺に使える土があるだろうと予測して、触って強度や色を確かめていきます」と丁寧な作業のプロセスを明かします。
久住さんは幼いころから左官職人として厳しい修業に励み、毎日、土壁を塗っては剥がす作業を繰り返しながら技術を磨いてきました。弟子たちにも同じ方法で指導しており、基本技術の積み重ねを重視しています。久住さんが人生で最初に塗った壁は、小学校4〜5年生のころに父の指導で仕上げた押し入れのなかの壁で、現在も残っているといいます。
施工にあたっては、依頼主との打ち合わせを大切にしており、「おまかせっていうのは信頼してご依頼いただいているので職人冥利に尽きます。ただ、お客さんの好みや考えを聞くと、自分一人では思いつかないような新しいものが出てくるので、打ち合わせをしながら作るのが好きです」と語ります。特に仕上げの際は、湿度や温度による微妙な変化も影響するため、最後の一コテまで気を抜けないといいます。「コンマ数ミリの話ですが、最後の瞬間のタイミングやコテの滑り次第で全部やり直しになることもあります。最後の最後は大事なところですね」と、作業における緊張感を明かしました。
番組のテーマである「手紙」についても触れ、久住さんは「海外に行ったときに街角で綺麗な絵葉書を見ると、送りたいなと思います」と語ります。この日、久住さんは師匠である父親に宛てた手紙をスタジオで朗読しました。
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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/post/
番組公式X:@sundayspost1