川瀬良子がパーソナリティをつとめ、日本の農業を応援するTOKYO FMの番組「あぐりずむ」。毎週火曜は、農業はもちろん、時代の先を捉えるさまざまな研究をおこなっている東京農業大学から、最先端の農学研究を紹介します。5月10日(火)と5月17日(火)の放送では、2週にわたり、森林総合科学科の矢部和弘(やべ・かずひろ)教授が出演。「日本の森林の現状」をテーマに伺いました。
矢部和弘教授
◆実は森林大国の日本
矢部教授によると、日本は国土面積の約3分の2を森林が占めており、先進国では、1位フィンランド、2位スウェーデンと北欧諸国が並ぶなか、3位に名を連ねているのが日本です。日本の森林の約4割がスギやヒノキなど針葉樹の人工林で、残りの約6割の多くは雑木林が占めています。
森林と聞くと原生林をイメージする人もいるかもしれませんが、「日本における原生林は全体の面積の4%にしかならない。日本の森林は、何かしら人の手が加わってきたということ」と説明します。
そんな豊かな森林は“林業”によって健全に管理され、支えられてきました。もしも森林が健全に保たれなかった場合、何が起きるかというと「土砂災害の防止や水資源の確保など、森林の持つ機能が失われてしまう。そうなると、山村生活者だけでなく、都市生活者にもかなり大きな影響を及ぼすことになる」と言います。
そうならないためにも「きちんと間伐(かんばつ)をおこない、良い木を育てて切る時期になったらきちんと切り、その後にもう一度植えて循環させていく、というサイクルをきちんとしていかなければならない」と警鐘を鳴らします。
例えば、関東の都市部の丘陵地帯など、管理されていない状態で残された木々が育ちすぎてしまうと、崩れてしまうことがあるため「大きくなりすぎて危ない木はきちんと切ってあげること。そして、(切った後に)そこをどのようにしていくのか、きちんと計画を立てることが必要。とにかく、どのように活用していくのかを考えられないと、良い森林づくりはできない」と指摘します。
◆危険と隣り合わせの林業
林業で使う機械などを研究する「林業工学」が専門の矢部教授。自身の研究について、「森林の労働者が、いかに安全に働ける場所を作るかがテーマ」と語ります。
というのも、矢部教授が林業工学の研究に邁進することになったのは、大学院生のときに知り合った林業に携わっていた方が、林業労働災害で命を落としてしまったことがきっかけでした。それまでは森林から出る土砂と森林での作業の関係について研究していましたが、悲しい出来事があって以来“林業における安全”に関心がシフトしたそう。
また、産業別で死亡率を見ても林業が一番高いそうで、そんな職場環境を“なんとかしたい”という一心で、現在も“林業の安全性”について日々研究し続けています。あらためて矢部教授は、「労働環境をきちんと整備していくことが安全に一番つながっていく。そこで、林業で使う機械が重要になってくる」と声を大にします。
なかでも林業における労働災害で最も多いのはチェーンソーによるもの。手で直接持ち、木を切る際にからだが木に接近していることからも危険リスクは必然的に上がります。しかし、近年では“高性能林業機械”と呼ばれるパワーショベルのような重機を活用することによって、伐採や玉切り、集積など一連の作業が可能になりました。
高性能林業機械であれば、「木に接近することなく離れたところから作業できる」とメリットを挙げ、機械の普及によって「労働災害を減らすきっかけとなるのでは」と期待を寄せます。
ただし、森林に高性能林業機械を入れるためには、機械が通るための林道を整備する必要があり、これが「森林を壊すことになるのではないか」という声が上がったことも。
しかし、「現在は環境にきちんと配慮して山を壊さない道づくりが優先され、林道がつくられている」と話すと、川瀬は「農業や林業などの一次産業は、とにかく自然が相手ですからね。こうした労働によって私たちの生活が支えられていることも忘れないでほしいですね。あらためて、こうした労働者の方に感謝したいです」と感想を口にしました。
次回5月31日(火)の放送も、どうぞお楽しみに!
<番組概要>
番組名:あぐりずむ
放送日時:毎週月曜~木曜 15:50~16:00
パーソナリティ:川瀬良子
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/agrizm/