Cartoonがパーソナリティを務めるinterfmで放送中のラジオ番組「sensor」(毎週金曜19:00-21:55放送)。番組コーナー「NY Future Lab」では、これからの時代の主役となる「Z世代」と「ミレニアル世代」にフォーカス。アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どのような性質や特徴があるのかなどについて、Z世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していきます。
今回のテーマは、「ヒップホップ50周年と、その本当の意味」。ニューヨーク・ブロンクスでヒップホップという音楽ジャンルが誕生してから50周年を迎えた今年。「NY Future Lab」のメンバーが、ヒップホップやその歴史について語り合いました。
写真はイメージです
◆ヒップホップ誕生から50年 ニューヨークでは記念イベントも
ヒップホップが生まれたとされるのは、1973年8月11日、ブロンクスのコミュニティセンターでおこなわれたとあるパーティ。クール・ハークというDJが2枚のレコードを使い、曲の間奏部分だけを順番につなぎ、後に“ブレイクビーツ”と呼ばれるものを初めてプレイしました。これがヒップホップ誕生の瞬間だと言われています。
今年はヒップホップ誕生から50年の節目の年ということで、8月11日にはニューヨークのランドマークであるヤンキースタジアムで記念コンサートが開催され、Snoop Dogg(スヌープ・ドッグ)からLil Wayne(リル・ウェイン)まで大御所ラッパーが大集結。このイベント以外にも、ニューヨークではヒップホップにまつわるさまざまなコンサートや無料イベントがおこなわれています。
ラボのメンバーは、ヒップホップについてどのような思いを抱いているのでしょうか?
メアリー:ヒップホップは全ての文化に影響を与えている。音楽を見れば、その影響がどれほど強いかがわかるよね。ポップソングを聴いていても、たいていの場合、ラップ風のアーティストがフィーチャーされているしね。
ケンジュ:ヒップホップは文化のジャンルの一部で、最も力強いリズムを持っていると思う。常に変化し続けていて、過去何年かの間にも、新しいサブジャンルが生まれているんだ。でもヒップホップの核となる本質は力強いリズムで変わらない。強力なリズムが人々の行動をインスパイアするんだ。例えば何かの祝い方、話し方、抗議の仕方なんかも。
ノエ:社会への抗議の要素は大きいね。
ケンジュ:最初は主に警察の過剰な暴力に対する抗議だったんだよ。
シャンシャン:先日ブルックリンの中央図書館に行ったんだけど、そこでJay-Zの回顧展をやっていて、とても混んでいた。「あれ、なんで?」って混乱しちゃった。Jay-Zはまだ現役で健在でしょう? なぜ彼の展示会を開いているのかな? って。
ケンジュ:彼は単なるヒップホップを超越しているからね。
ノエ:間違いなく彼はニューヨークの生ける伝説だね。
ケンジュ:そもそも彼が、ブルックリンのマーシー・プロジェクト(低所得者団地)の出身だという事実を知ってほしいよね。そこで生まれ育った人に将来の選択肢はあまりない。おそらく低賃金の仕事につくか、刑務所に入るか、あるいは亡くなってしまうかもしれない。あの辺では多くの銃撃事件が発生しているからね。
でも彼は単にまともに成長しただけでなく、数十億ドルを持つビリオネアになった。あの環境からここまでの高みに到達したなんて、ほとんどありえないよ。そういう意味でも彼は僕が尊敬する人の1人だ。すごくインスパイアしてくれるからね。
アメリカのみならず、世界中の多くのアーティストがヒップホップの要素を取り入れたポップソングを発信しています。今やZ世代に一番人気の音楽ジャンルはヒップホップであるということを示すデータもあり、ハイファッションブランドなどがヒップホップアーティストとコラボレーションをするなど、その影響力は計り知れません。
この夏はブルックリン中央図書館でJay-Zの回顧展がおこなわれていますが、モデレーターでZ世代評論家のシェリーも実際に足を運んでみたそう。
「ブルックリン中央図書館は100年近い歴史を持つアールデコの建物なのですが、Jay-Zのラップのリリックでデコレーションされているんです。彼の生い立ちから成功するまでを大規模なマルチメディアで展示していて、彼のスタジオを再現した展示もあってぶっ飛びました」と、感想を語りました。
(左から)ミクア、シェリー、ヒカル、ノエ、シャンシャン、メアリー/©NY-Future-Lab
◆「ヒップホップはピープル・オブ・カラー(非白人)に声を与えた」
それでは、なぜヒップホップはここまで愛される音楽ジャンルになったのでしょうか? ラボのメンバーが、それぞれの考えを語りました。
ケンジュ:音楽は常に人々に影響を与えてきたけど、ヒップホップはまず黒人に共感され、それがあまりにもクールで良すぎたから、黒人だけでなく他の人々の共感も呼んだんだと思う。誰も無視できなくなったということだよ。音楽のスタイルがあまりにも大きな影響力を持っていたから。
ノエ:特に、抑圧されている人々の共感を呼び起こすんだよね。ヒップホップというアートと文化のスタイル。例えばラップ、ブレイクダンス、グラフィティ、すべてが少数派を公平に扱わない権力に抗議することに関連していると感じるんだ。だから多くのマイノリティがそれに共感するんだよ。
ヒップホップには、自分たちの物語を取り戻すという要素が多く含まれていると思う。アメリカでは少なくとも、歴史などで語られる内容はいつも白人、特に白人男性の声、いわゆるエリートの視点で作られてきたんだ。黒人の視点で語られることはほとんどなかったから、ヒップホップは彼らに声を与える大きな役割を果たしたんだよ。
そして、黒人以外のピープル・オブ・カラー(非白人)のコミュニティにも、同じように社会における自分の居場所や声を持っていないと感じている人がたくさんいるんだ。ヒップホップは声を持たない者に声を与える方法の1つなんだ。
ケンジュ:そういう意味でも、50周年を祝うのは間違いなく良いことだと思う。文化に新たな生命を吹き込んで、200年後にもヒップホップを祝えるように。
メアリー:ヒップホップというジャンル自体について話すのは、どんなことでも良いことだと思うな。
「ヒップホップは黒人に声を与えた」という意見が出てきた今回のディスカッション。シェリーは「Z世代は人種の多様化が進んでおり、人口の半分近くが非白人なので、ヒップホップのメッセージに共感する人が多いというのは当然かもしれません」とコメント。
そして「歴史は常に白人男性のエリートの視点で語られてきた」というノエの意見について、シェリーは「(今でも)保守共和党が強い州では、歴史を書き換えようとする動きもあります」と補足。
つい最近もフロリダ州で、学校で奴隷制の歴史について教える際の表現を「奴隷制は黒人にメリットをもたらした。奴隷制から解放された後も、黒人は奴隷として教わった技術を使って生きていくことができた」と書き換え、歴史学者をはじめアメリカ中の多くの人から怒りの声が寄せられています。
世界が多様化していくなかで、一方的な歴史観だけで歴史を語らないようにするという意味では「ヒップホップの存在感はこれからも増していくのではないでしょうか」とシェリー。「そういう意味も含めて、『ヒップホップ50周年』というのは覚えておいてほしいと思います」と締めくくりました。
<番組概要>
番組名:sensor
放送エリア:interfm
放送日時:毎週金曜19:00-21:55放送
出演:Cartoon、シェリーめぐみ