放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。8月10日(日)の放送は、登山家の渡邊直子さんをゲストに迎えて、お届けしました。
(左から)パーソナリティの小山薫堂、渡邊直子さん、宇賀なつみ
◆看護師の仕事を続けながら14座を制覇
今回は、日本人女性で初めて標高8,000メートル級の山々14座をすべて制覇した、登山家の渡邊直子さんがスタジオに登場しました。
福岡県生まれの渡邊さんは、幼少期から登山に親しみ、社会人になってからも看護師として働きながら世界の高峰に挑戦し続けてきました。2006年のチョ・オユー登頂を皮切りに本格的な8,000メートル峰への挑戦を開始。エベレストやK2を含む数々の山を制覇し、2024年10月にはシシャパンマ登頂を達成。日本人女性として初めて14座すべての登頂に成功しました。現在も看護師の仕事を続けつつ、講演活動や初心者向けのヒマラヤトレッキングにも力を入れています。
登山との出会いは3歳の頃。「看護師の母が勤めていた障がい児養育施設の園長先生が素晴らしい方で。夏になったら森で遊ばせるキャンプを開催していて、それに1人で参加しました。そのなかのメニューで山登りがあったんですね。面白い体験をしたなという何となくの記憶があります」と振り返ります。
高峰登山といえば莫大な費用や多くのスタッフが必要という印象がありますが、渡邊さんは「全部自分で集めています」と明かします。アルバイトで資金を貯め、1座目の挑戦では装備や食料を日本から持参。4人に1人のシェルパ体制で、低予算ながらも登頂を成功させました。
◆登頂だけが登山の醍醐味ではない
渡邊さんにとって、登山の魅力は山頂に立つことだけではありません。「山に登ること自体が楽しいわけじゃなくて、はじめましての方たちと何ヵ月もかけて生活を共にする時間が面白い」と話します。
ハプニングや生死に関わる場面、シェルパ(ネパールの少数民族)たちとの交流、そうしたすべてを含めて登山だと考えているそうです。小山の「きつくて嫌だと思ったことはないですか?」という質問に、渡邊さんは「恐怖する場面もありますが、終わったら『面白い体験ができたな』って思います」と答えました。
また、8,000メートル峰に特別なこだわりがあるわけではなく、「より長く生活できるから」という理由で山を選んでいると明かす渡邊さん。1座に挑む場合は約2ヵ月の遠征になりますが、高度順応が進めば短期間で複数座を登ることも可能です。
渡邊さんは、「山で目にする景色は何度経験しても心を動かされる」と話します。「山のきつさを忘れてどこまででも行ける瞬間があります」と話し、同じ山でも訪れる人や起こる出来事が毎回異なるため、いつ行っても新鮮な体験になるといいます。
しかし、山で苦楽を共にした仲間たちとの別れは意外とあっさりしたものだと、渡邊さんは話します。「シェルパ族のコミュニティにいると、死生観が少し違うことがわかってくるんですよね。亡くなることを悪いことと捉えない文化がある」と説明し、看護師としての経験からも、その切り替えの早さは自然なことだと感じているそうです。
◆楽しさが苦しい記憶を上書きする
世界で14座すべてを登頂した人はおよそ80人で、そのうち女性は20人弱です。渡邊さんは「誰でもできる時代なんです。日本に情報が入ってこないだけ」と言います。
山では、食の楽しみも欠かせません。渡邊さんの最近のお気に入りは、友人の登山家からもらったオイルサーディンの缶詰。東京で似た味を探し当て、遠征の際には必ず持っていくそうです。下山後は「おいしい日本米や刺身、お寿司をすぐに食べにいきます。カトマンズにお店があるので爆食いです」と笑顔を見せます。
一方で、山で死を感じた瞬間は「20回以上はあった」と渡邊さん。雪崩に巻き込まれる、古いロープが切れて滑落しそうになる、など想像を絶するピンチを経験したといいます。それでもなお、山に登る理由について、「2ヵ月のあいだ楽しい遠征であれば、怖いことが打ち消されるんですよね。そうすると、怖かったことが貴重な面白い経験としてプラスになるんです。登頂できたけど嫌な思い出になってしまった山は、もう一度行っていい記憶に上書きしたくなります」と語ってくれました。
番組では、渡邊さんが「人生に疲れた方々へ」というテーマでお手紙を読む場面もありました。
<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/post/
番組公式X:@sundayspost1