近現代史研究家の辻田真佐憲とフリーアナウンサーの高橋万里恵がパーソナリティをつとめるTOKYO FMサンデースペシャル・ラジオ番組「石破茂に防衛について聞いてみたwith 辻田真佐憲」。2月12日(日)の放送では、ゲストに衆議院議員・石破茂さんを迎え、「日本の防衛」について伺いました。
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(左から)辻田真佐憲、石破茂さん、高橋万里恵
日本の安全保障の歴史的な大転換とも言われる昨今。北朝鮮のミサイル問題やロシアによるウクライナ侵攻などを背景に、防衛費増額や敵基地攻撃能力の必要性が問われています。番組では、2021年に「防衛省の研究 歴代幹部でたどる戦後日本の国防史」(朝日新聞出版)を出版した辻田真佐憲が、過去に防衛大臣をつとめた経験を持つ石破茂衆議院議員に、日本の安全と平和、反撃能力、岸田政権の対応など、防衛ついてお聞きしました。
◆防衛費増額に至った説明責任を果たすべき
2月3日(金)、政府は防衛費増額の財源を確保するための特別措置法案を閣議決定しました。2023年度予算案で、4兆5,919億円の税外収入を確保。防衛費は23年度から27年度の5年間で総額43兆円程度を投じる方針です。現在の水準からの増額分となる17兆円程度の財源は、税外収入、決算余剰金、歳出改革で11兆円ほどを捻出し、残りは増税や建設国債などで賄う計画を示しています。
税外収入では、「防衛力強化資金」と呼ばれる新たな枠組みを設立。一般の経費に使う税外収入と区別し、複数の年度にわけて防衛費に充てる方針です。
防衛費増額については賛成の意見を示した石破さんですが、一方で、「性急な決定のあまり、具体的な内容説明に欠けているのではないか」と疑問を呈し「納税者のお金をどう使って、いわゆる抑止力、戦争をやらない力がどれぐらい高まったのかがわからないのは具合が悪い。岸田さんの言葉を借りれば『丁寧に説明する』ことが必要なんでしょうね」と述べます。
ロシアによるウクライナへの侵略を背景に、NATO(北大西洋条約機構)加盟国は、一定の防衛努力をするために国防費のGDP比2%という基準を打ち出しました。NATOの目標を引き合いに、自民党も追随する形でGDP比1%目安から倍の2%まで上げる方針を示しています。
自民党の動きに対し、石破さんは「NATOは集団的自衛権をベースにした、集団安全保障の組織。日本は日米同盟しかない。これは全然違うわけですよ。NATOも2%引き上げるから日本も2%というのは相当に乱暴なお話ですよね」と一石を投じます。「中身の議論が進まないまま防衛費増額に踏み切ったのではないか」と所感を述べました。
◆「台湾有事」は起こり得るのか?
税負担に否定的な意見が集まるなか、防衛費増額に関しては賛成意見が過去に比べて増加傾向にある昨今。その背景には、中国による台湾侵攻、すなわち「台湾有事」が起こり得るのではないかと考えられていることがあります。
石破さんはロシアによるウクライナへの侵略が1年経った今でも続いていることを挙げ、地続きの国家間であっても侵略には膨大なリソースを割く必要性があるとコメント。まして台湾有事の際には、海路の攻略に加えて精強な台湾軍に対抗する必要があり、米韓同盟も発動される可能性が高いと石破さんは分析します。
半導体の受託生産で世界最大手の台湾には、アメリカの巨大な軍用レーダーも設置されており、軍事的にも非常に重大な役割を担っています。このように台湾がアメリカにとって重要なポジションにあることを踏まえて、中国の侵攻の可能性と態様を想定する必要があると石破さんは語りました。
◆反撃能力はどの「抑止力」に該当するのか
岸田総理は反撃能力、敵基地攻撃能力保有で強化される日本の抑止力について、決して他国に対する脅威にならないと表明しています。岸田総理は脅威にならないとする理由について、不当な武力攻撃をする国々の行動を抑止するために重要であり、平和と安定に貢献する日本の外交力の裏付けになると説明しました。
抑止力とは、相手に攻撃が無意味だと思わせる軍事力の役割です。日本の防衛政策では、戦後「懲罰的抑止力」「報復的抑止力」は持たず、「拒否的抑止力」に主眼が置かれています。
「『やれるものならやってみなさい。日本国民は1人も死なないし、やるだけ無駄だ』っていうのが拒否的抑止力」と説明する石破さんは、反撃能力がどの抑止力に該当するのか議論を進める必要性があると意見を示しました。
◆総理大臣なら何に注力したい?
もし石破さんが総理大臣と仮定するならば、安保外交でまず実行したいことは「自衛隊の存在意義の見直し」だそう。
「日本国憲法第9条を読めば、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』と書いてあるわけです。じゃあ、自衛隊って何なのよ(という話)。陸軍じゃない、海軍じゃない、空軍じゃない。自衛隊は軍隊じゃないんです、なぜなら憲法で禁止されている「戦力」じゃないからです。どうして「戦力」じゃないんですか? それは必要最小限の自衛力だからです、ってことを、私も大臣だったときには言ってきました」と述べる石破さん。
仮に台湾有事や朝鮮半島有事が起こった際は、自衛隊の作戦内容が複雑化するため、日本国民への説明が困難であると指摘しました。
発言を受け、辻田は石破さんに「最初にされるのは自衛隊の説明になるのでしょうか? もっと言えば、すべての原因が憲法にある気がします。今の憲法なのに、あれだけ自衛隊が大きな規模としてある。この矛盾を解消するため、やはり憲法を改正するところに行き着くのでしょうか?」と疑問を投げかけます。
「本当はそうあるべき」と同調を示した石破さんは「こういう風に安全保障環境が悪くなる前に、そういう議論をきちんとしておくべきだったと思います」と発言しました。
◆「統合司令部」新設に至った理由
政府は陸・海・空の3つの自衛隊を一元的に指揮する、常設の「統合司令部」を防衛省のある東京都・市ヶ谷に新設する方針を固め、早ければ2024年度の発足となります。
現在の制度では「統合幕僚長」が、部隊の運用と防衛大臣の補佐を担っています。東日本大震災の際、部隊の運用に十分な時間を割けなかったという指摘を受け、「統合幕僚長」とは別に「統合司令官」が置かれ、指揮を担うことになりました。指示系統が複雑化せず、効率的に運用できるかが課題となります。
「統合司令官」が発足した経緯について、石破さんは「幕僚長というのはスタッフで、指揮官ではないんです。総理大臣や防衛大臣に対してアドバイスをするのが幕僚。それとは別に統合で指揮をとれる、指揮官としての役職がなかったわけです」と解説します。
辻田からの「統合幕僚長と統合司令官の仕事が重なってしまうことはないんでしょうか?」という質問に対して、石破さんは「ありません。重ならないようにします。大臣や総理に幕僚として述べながら、自分が指揮するなんて超人でもできないですよ」と即答しました。
◆「対等な対米関係」を築くために必要なこと
今後の日本について、石破さんは「アメリカの意思ですべてが決定されるという、一種の隷属関係みたいな国家であってほしいとは思いません」と自身の考えを述べます。
現在は、日本が他国から武力攻撃を受けた場合、アメリカは日本を防衛する義務を負います。しかし、アメリカが武力攻撃を受けた場合、日本は防衛する義務を負いません。
「その代わりに日本の領域に米軍を置くことができるっていう、こういう関係は決して長続きしないと思っているんです」と、日米の条約上の義務が非対称であることで持続可能性を疑問視する石破さん。価値観を共有する重要な同盟国であると認識しているからこそ、対等な関係性を築くべきだと主張しました。
続けて石破さんは、日本が自立的な防衛に進んだ場合、核武装の必要性について「選択肢として論理的にはありえること」と発言。一方で、広島・長崎が負った甚大な被害に触れ、国民の同意を得ることは極めて難しいと見解を示しました。
日本には米国の「核の傘」が保障されていますが、アメリカが核使用に至る意思形成のプロセスを共有することは可能だと考える石破さん。「日本が核を持つという選択をしないのなら、『少しでも核抑止力を高める努力って何だろう』って話を、私はしないといけないなと思っています」と発言しました。
<番組概要>
番組名:石破茂に防衛について聞いてみたwith 辻田真佐憲
放送エリア:TOKYO FM
放送日時:2023年2月12日(日) 19:00~19:55
パーソナリティ:辻田真佐憲、高橋万里恵
ゲスト:石破茂