笹川友里がパーソナリティを務めるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。10月3日(土)の放送は、先週に引き続き三井倉庫ホールディングス株式会社 上級執行役員 情報システム担当の佐野直人(さの・なおと)さんが登場。AIやデジタル技術が変える物流の未来と、これからの時代に人間が担う役割について話を伺いました。
(左から)佐野直人さん、笹川友里
佐野直人さんは、外資系ITベンダーでSE、コンサルティングを経て、マーケティングとして各種ソリューションを統括。IT大手での政府の「e-Japanプロジェクト」の支援や、事業戦略の策定、新規事業の立ち上げなどに携わります。その後、大手企業でデータ基盤の構築やDXの推進、新サービスの構築を経験し、現在は三井倉庫ホールディングス株式会社の情報システム担当役員として、グループ全体のITやDX、セキュリティ領域を統括しています。
◆AIと人の協働がもたらす物流変革
前回は、三井倉庫ホールディングスの物流DXを支える「攻め」と「守り」の取り組みに注目しました。今回の放送では、デジタルが変える物流の未来について伺っていきます。
佐野さんによると、現在、倉庫現場でおこなわれている仕事のなかで、自動搬送機と呼ばれるロボットが荷物を運んでいたり、出荷・入庫の検品の際にAIが用いられていたりと、AIや機械が担える業務が増えているそうです。その一方で、入荷の変更や出荷の変更など、倉庫内ではイレギュラーな事態に対しては、人間が判断したうえでAIに指示を出すことが適していると言います。
バックオフィス業務でも、AIと人間の役割分担が進んでいます。請求や支払いに関する照合などの作業レベルの業務はAIに任せつつ、「仕事として請求支払い業務というところは、人間ならではの倫理観も持ってカバーしなければならない。そういった役割分担は、ちゃんとできるようになってきています」と説明します。
また、同社では検品の際、マスターデータがあるものはマスターデータと照合させることで、AIによる検品などで98%以上の精度をもたせており、「ほんのちょっとのミスに関して、人間が正しくチェックできる形に持っていくのがゴールです」と力を込めます。
◆次世代技術で進化する物流の最適化
続いて笹川は、物流とフィジカルAIの関係性について尋ねます。佐野さんは、フィジカルAIと聞いてイメージする“人型ロボット”を導入する段階には至っていないとしつつも、先述した自動搬送機をAIが制御しているほか、重い原材料を扱う場合に必要となるフォークリフトも自動運転化が進んでおり、「そういったロボットでいうと、フィジカルAIというのは、もっと(倉庫現場の仕事に)入ってくるだろうなと思います」と推測します。
また、物流の効率化に向けて期待されているもう1つの技術が、複数の変数をもとに、瞬時に答えを導き出す可能性を秘めた「量子コンピュータ」です。三井倉庫ホールディングスでは、積載効率を高めて物流の最適化を図るべく、複数の輸送契約に基づいて運ぶ荷物を1ヵ所に集め、「どのように荷物を組み合わせれば積載効率を良くできるか」「どのルートを走れば効率的か」などといったことを計算しています。
しかし、それを実現するためには、非常に多くのデータを集め、しかも、1週間前や10日前ではなく、2日前~前日の最新データをもとに計算しなければなりません。佐野さんいわく、過去には3億通りもの結果が出てくることもあったそうです。
そこで、量子コンピュータを使って最適化を試みたところ、「人間のプロの手配師と同じくらいのレベルの回答が出せるようになってきています。我々も実験でやったことがあるのですが、ほぼ人間と同じぐらいまではいけるなというところですね」と実感を語ります。
そのうえで、こうした最適化を実際の物流に導入するには、技術面とは別の課題もあるといいます。例えば、同じ拠点に集まる複数の会社の荷物をまとめて運ぶ場合、それぞれが荷主と異なる契約を結んでいるため、途中でトラブルが起きた際の責任をどう担保するのか、といった商流的な課題が生じます。佐野さんは、こうした課題をどのように解決していくかが、今後の議論の中心になると説明します。
◆AIの普及で高まる人間の「価値創造」
佐野さんは、仕事におけるAIと人間の共存について、「最終的に“仕事の作業”という部分は、そのうちAIが取って代わってくれるでしょう。ただ、(人間の)仕事がなくなるわけではありません。AIが24時間働いてくれて、作業も早くて楽にしてくれたので、次に『人間は仕事として何をしていくべきなのか?』ここをみんなで考えていきたい」と語ります。
そこで、三井倉庫ホールディングスでは、DX人材教育のなかに設けている2つのグレードのうち高いほうに、ビジネス面の戦略・立案や課題解決、コンサルティングなどの力を養える“ビジネス人材”のプログラムを組み込んでいます。顧客の業界特有の知識に加え、顧客や社内のメンバーを巻き込みながら物事を進められるようなコミュニケーション能力の向上など、ビジネスリーダーとして現場を動かせる人材を育んでいます。
佐野さんは、「当然、こうした人間がAIを自分で使いこなせていけば一番いいんですけれども、そういうスーパーマンみたいな人は世の中にそうそういないので、今はビジネスリーダーになる人をしっかり養成しながら、AIのテクニカルな部分は別の人材を当てて、チームで現場を引っ張っていく人を育てていってるところです」と言及します。
最後に、笹川がデジタルとAIが変える“働き方の未来”について伺うと、佐野さんは、AIによってさまざまな作業が効率化されるなかで、人間はAIによって生まれた時間を活用し、想像力や創造性を生かすことが重要になっていくと言います。そして、「みんなが価値を作り出す方向に向かっていけば、争い事もなく前向きな議論がたくさんできる社会になっていくんじゃないかと考えています」と期待を込めていました。
次回10月10日(土)の放送は、九州大学大学院 システム情報科学研究院教授で工学博士の荒川豊さんをゲストにお迎えします。荒川さんが研究しているIoTやAIを使って人の行動を読み取り、人の行動を変える「人に寄り添う情報システム」についてなど、貴重な話が聴けるかも!?
----------------------------------------------------
この日の放送をradikoタイムフリーで聴く
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
----------------------------------------------------
<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/