脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。
TOKYO FMとJFN系列38局の音声配信プラットフォーム「AuDee(オーディー)」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに、茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。
8月9日(土)の配信では「更年期でも脳から元気に過ごせる方法」に関する質問に答えました。
パーソナリティの茂木健一郎
<リスナーからの質問>
毎日モヤモヤしながら更年期を過ごしています。こうしたなかで、脳から元気になる方法が知りたいです。
<茂木の回答>
人生はライフステージの変化があって、違った景色が見えてきますよね。松尾芭蕉は「我々は旅人だ」と言いましたけれど、どんどん景色が変わってくるわけです。そうすると、若いときには元気になれていたことで、今は元気にならないかもしれない。逆に若いときには気づかなかったことにも、年を取った今なら気づくかもしれません。
脳は変化し続けられる存在で、私たち脳科学者はこれを「可塑性(かそせい)がある」(※粘土のように、固体に圧力を加えて変形させたとき、圧力を取り去ってもひずみがそのまま残る性質。転じて柔軟に変化し続ける物事などに使うこと)と言っています。
神経細胞と神経細胞がつなぎ変わり変化し続けるのですが、この可塑性にチャンスがあると思うしかありません。一番いけないのは「若いときはこうだったのになぁ」と思ってしまうパターンです。もうそのときは戻ってきません。旅も同じですよね。「朝、出発したときにはこうだったのになぁ」と思っても、もう朝は終わっていますよね。今は違うところに来ていますし、違う人たちがいますし、違う景色が見えています。だから今の状況にうまく適応して、自分が変わる。これが大事です。
どうしても「過去は良かったな」と振り返ってしまうと思考のループに入ってしまって、どんどんネガティブになってしまいますから、今自分がいる場所、今見ている光景に没入していただきたいなと思います。
脳科学でも、最近いろいろな研究がおこなわれています。例えば神経細胞は、以前は大人になったら新しくできないと考えられていたのですが、どうも大人になってからも新しくできるらしいということがわかってきています。あるいは、何歳になっても生活習慣によって脳を若々しく保つことができることもわかってきていますし、実はそこまで年齢を気にする必要もないという研究結果があるんです。もちろん若いときの脳とは違いますが、年を重ねた分だけ、いろいろなチャレンジができる状態になっていることも事実です。一番大事なのは、「私はもう年なんだ」と思わないことですね。残りの人生のなかで、今日が一番若いですよね。終わりではなく、今日という日はこれからの人生の始まりなんです。
私も年齢は全然気にしたことがないですよ。常に今ここからの旅を思って、いろいろとチャレンジをしているんですけれど、チャレンジのためには“安全基地”が必要です。安全基地とは、やっぱり、自分を受け入れることですね。自分を受け入れることで、今の自分のありようを安全基地として、そこからチャレンジすることができます。また、大切な仲間との語らいや絆、これも安全基地になってくれます。もしよろしければ、あなたもこの「茂木健一郎のポジティブ脳教室」という場所、コミュニティを安全基地にしてくださったらうれしいなと思います。
もちろんそうは言っても、モヤモヤして「なんか今日は脳の調子が良くないのかな」と思われることもあるでしょう。しかし、そういうときも、そういう自分でさえ受け入れて安全基地にすることができるんです。自分を受け入れて安全基地にできたら、ちょっと周りを見渡してください。あなたが今見ている光景って、どんな光景ですか? それは案外、良い景色ではないでしょうか。ぜひ、今自分が置かれているところを受け入れて、そしてそれを安全基地として、チャレンジを続けていただきたいなと思います。
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音声版「茂木健一郎のポジティブ脳教室」
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<番組情報>
番組名:茂木健一郎のポジティブ脳教室
配信日時:毎週土曜 22:30配信(予定)
パーソナリティ:茂木健一郎