放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。7月27日(日)の放送は、アナウンサーの藤井康生(ふじい・やすお)さんをゲストに迎えて、お届けしました。
(左から)パーソナリティの小山薫堂、藤井康生さん、宇賀なつみ
◆NHK時代の第一志望はディレクター
この日スタジオに迎えたのは、長年にわたりNHKの顔として活躍してきたアナウンサーの藤井康生さんです。43年のキャリアのなかでも、特に38年間にわたって担当した大相撲中継で知られています。
平成13年夏場所千秋楽の「貴乃花対武蔵丸」など数々の名勝負を実況で伝えてきた藤井さんは、2022年のNHK退局後もフリーアナウンサーとして活動を続け、「ABEMA大相撲LIVE」でその声を届けています。そして、最新の著書「大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話」(講談社)も話題を呼んでいます。まずは藤井さんに、相撲中継の仕事を担当するに至った経緯を伺いました。
藤井さんはもともと、最初からアナウンサー志望だったわけではありませんでした。NHK入局時には4つの職種から選んで応募する必要があり、「ディレクターを第一志望、アナウンサーを第二志望にしていた」といいます。しかし音声テストを経て、最終的には「あなたはここから先はアナウンサーでお願いします」と方向が決まり、そのまま歩み始めることとなりました。
初任地は、北海道の北見放送局。「おそらく、放送局のなかでいちばん北にある放送局です」という地で、藤井さんは4年間を過ごします。もともと好きだった相撲に直接関わる仕事はなかったものの、「スポーツの放送に携わりたいということは常に言い続けていました。それから数年後になんとかスポーツの中継放送ができるようになり、そのなかで大相撲の中継の担当もできるようになりました」と振り返ります。
◆相撲実況の向き合い方を変えた先輩からの言葉
藤井さんが大相撲の実況において難しさを感じたのは、「自分の気持ちをどれだけ放送に込められるか」でした。新人の頃、先輩から「君の放送には面白みがない。あなた自身は放送席で楽しめていますか?」と指摘されたことが、実況と向き合う意識を変えるきっかけになったといいます。
「いい相撲だと拍手をしながら実況してもいい。感情が出るような放送のほうが、視聴者にも楽しさが伝わる」とのアドバイスに背中を押され、藤井さんは放送席で相撲を楽しむ気持ちで臨むようになりました。
「最終的に先輩から『力士、親方、当事者にはちょっと失礼かもしれないけれども、大相撲はやっぱり娯楽ですよ。一般の見ている方、視聴者のみなさんからすると娯楽なんだから、娯楽であるならば、あなたが楽しまなければ聞いている人も見ている人も楽しめないですよ』と言われました。そこから少し、放送席に座る気持ちを変えていって楽になりました」と話します。
とはいえ、中立を求められる実況の場でも、思わず応援の気持ちが出てしまうことも。「今でも放送のなかに好き嫌いがぽろっと出ています」と明かし、「藤井はあの力士が好きだよな」と感じている視聴者も少なくないようです。
藤井康生さんの著書「大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話」(講談社)
◆藤井康生が思う大相撲の魅力
現在、大相撲は再び高い人気を集めています。外国人観光客の増加や若いファンの台頭もその一因ですが、藤井さんは「相撲の中身は、昔に比べて面白くないと思う」と率直な見解も述べます。「体が大きくなりすぎて、ボーンと押してパタッと倒れる。紙相撲みたいな取組もある」としたうえで、「それでも人気はある。それは別のところに理由があるのだろう」と話します。
たとえば、誰が優勝するのか予想がつかない状況や、「番付を飛び越えるような出世物語」がその魅力のひとつです。藤井さんは「今は大の里という力士が一気に出世して横綱に上り詰めました」と紹介し、観客にとっての「物語の面白さ」に注目します。また、大相撲の魅力として「競技者と観客の距離が近い」点を挙げ、「土俵から力士が転がってくるところにお客さんがいるわけです。大相撲ならではのよさがたくさんあります」と語りました。
◆相撲の面白さを教えてくれた祖父
番組のテーマ「手紙」にちなみ、藤井さんが「手紙を書きたくなる場所」として挙げたのは、四国の「しまなみ海道」です。
藤井さんは最近、仕事で初めて訪れた四国のしまなみ海道に感動し、「初めての景色を見たときに何かひとつ書いてみたい」と思ったといいます。「今ここに来ている」と親しい人に伝えたくなる瞬間が、今もあるのだそうです。
そんな藤井さんが手紙を送りたい相手は、すでに他界した祖父です。「この人がいたから今がある」と語るその祖父は、幼い藤井さんに相撲の面白さを教えてくれた人物でした。いまなお胸にある感謝や想いを、「ひとつにまとめて届けたい」という言葉には、藤井さんの人生と実況の背景にある、深い人間味がにじんでいました。
藤井さんは他にも、これまで実況したなかでもっとも印象に残った相撲の取組について語りました。ぜひ、放送をチェックしてください。
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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ