TOKYO FMグループの「ミュージックバード」で放送のラジオ番組「デジタル建設ジャーナル」。建設業界のデジタル化・DXを進めるクラフトバンク株式会社が、全国各地で活躍し、地域を支える建設業の方をゲストにお迎えするインタビュー番組です。パーソナリティはクラフトバンク株式会社の中辻景子が務め、一般になかなか伝わりにくい建設業界の物語を全国のリスナーに広めます。
今回の放送では、TAKUMINOホールディングス株式会社に注目。取締役 事業推進本部長の湯山卓(ゆやま・すぐる)さんをゲストに招き、デジタル型社内大学制度や、施工管理と設計を担える外国人材の紹介サービスについて伺いました。
(写真左)TAKUMINOホールディングス株式会社・湯山卓さん
◆社員の雇用を守るためにM&Aを実施
東京都千代田区に本社を構えるTAKUMINOホールディングス株式会社は、2019年に設立された比較的若い企業です。しかし、その源流をたどると、グループの母体となるのは福島県に拠点を置く小野工業所となります。明治22年創業という長い歴史を持ち、橋梁補修や土木工事を手がけており、グループ全体では100年を超える歴史を有しています。
同社は2015年から後継者不在に悩む建設会社のM&Aを重ね、これまでに延べ12社をグループ化。現在は社員数500名を超える規模となり、ホールディングス本体はグループ支援や新規事業の運営を担っています。「グループには“持続可能な社会基盤をつくる”という共通理念があります。これから人口減少へとさらに向かっていきますので、つくるというよりは維持をすることに貢献しようと考えているグループです」と湯山さんは説明します。北海道から九州まで拠点を広げ、東北・関東・九州の3エリアを中心に展開している点も特徴です。
そもそも、建設業界では後継者不足によって廃業に追い込まれる企業が少なくありません。TAKUMINOホールディングスは「敵対的買収」ではなく、むしろ「資本の受け皿」としてM&Aを実施。オーナーから事業を引き継ぎ、社員の雇用を守り、業界全体の施工供給力を維持していく役割を果たしています。湯山さんが「従業員が路頭に迷わないようにすることが第一」と語るように、その姿勢は極めて現実的かつ社会的です。加えて、採用力を強化し、新たな成長へとつなげることにも注力しています。
同社が大切にしているのは「人材」の力です。M&Aを成立させても、採用が進まなければ成長は望めません。そのため日本人採用に限界を感じ始めたタイミングで、外国人材の登用にも積極的に踏み出しました。現在では自社の採用にとどまらず、グループ外企業へも人材紹介をおこなう体制を整えています。
◆社内ノウハウ・スキルをスマホやPCで学習
TAKUMINOホールディングスでは人材育成の一環として、デジタル型社内大学制度「TAKUMINOアカデミー」を設立しました。これは社内向けに500~600本もの教育動画を制作・配信する取り組みです。動画は1本5~10分程度で、橋梁補修の施工方法や部材名称、財務やリーダーシップといった一般的スキルまで幅広い内容をカバーしています。「社内の技術を継承するという意味では、図書館のような機能を有しているかもしれません」と湯山さん。
「背中を見て覚える」という従来型の古い指導に頼らず、「スマートフォンや自宅のパソコンでも自分で勉強ができるので、自由に使っていただけるものになっています」と独自の制度について紹介します。現在はグループ内で閲覧可能な状況ですが、将来的には外国語版も展開し、外部提供することも視野に入れているということでした。
◆高度外国人材の紹介サービスに注力した理由
さらに同社は、建設業に特化した外国人材紹介サービスも展開しています。対象は技能実習生ではなく、施工管理や設計を担える「高度外国人材(技人国)」です。技能実習生が「職人」に近い立場であるのに対し、技人国の人材は「管理業務」を担える点が大きな違いです。
建設業に従事する高度外国人材は、全体のわずか3~4パーセントにとどまりますが、需要は確実に増加傾向にあります。TAKUMINOホールディングスはあえて競合の多い技能実習市場には参入せず、あまり注目されていなかった高度人材に焦点を当てました。
高度外国人材の紹介サービスは現在、約100社と契約を結んでいます。「土木、建築、設備、専門工事、鉄骨など幅広いです。建設業界は全体的に人手不足なので、土木に偏っているといったこともなく、満遍なくいらっしゃる印象です」と湯山さんは述べました。
◆優秀な人材を適した環境で働かせたい
新卒の施工管理職の有効求人倍率は9倍以上と高止まりしており、多くの建設会社が若手採用に苦戦しています。そこで外国人の高度人材を「新しいチャンネル」として迎え入れる企業が増えています。実際に地方の中小企業でも採用事例があり、2級施工管理技士の資格を持つ外国人が現場で活躍しているケースも少なくありません。TAKUMINOホールディングスでは「10人、100人を一気に採用するのではなく、必要な1人を確実に紹介する」ことを重視している点も、地域建設会社に寄り添う姿勢を示しています。
ただし、受け入れには課題もあります。技能実習生と同じ感覚で採用し、施工管理ではなく作業員として扱ってしまう企業も少なくありません。同社は、海外人材が本来の力を発揮できる環境づくりが重要だと考えています。
「入りたい人は多いのですが、受け入れ体制が整っていないケースがほとんどです」と湯山さん。海外の大学で電気工事を学び、日本語検定1級や電気工事士の資格を持つ人材が、日本企業から門前払いを受けた例もあるといいます。その後、同社のサービスを通じて紹介先の企業に就職し、現在は大きな力を発揮しているそうです。
こうした状況のなかで、日本に来た優秀な人材の思いを尊重することが重要だと湯山さんは強調します。多くの外国人は「建設プロジェクトを自分で回したい」という強い志を持って来日しています。TAKUMINOホールディングスでは、その志を実現できるよう、適切な会社への転職支援などに尽力しています。
「非常にたくさんの優秀な方が眠っています」という湯山さんの言葉から、まだ十分に力を発揮できていない人材を、建設業界全体でどう活かしていくかという強い課題意識が浮かび上がってくるようでした。
<番組概要>
番組名:デジタル建設ジャーナル
放送日時:毎週日曜日 15:00-15:55
パーソナリティ:中辻景子・田久保彰太