モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。今回のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「“ホームタウン”認定交流事業は、なぜ正しく広まらなかったのか?」。情報社会学が専門の学習院大学・非常勤講師 塚越健司さんに解説していただきました。
※写真はイメージです
◆JICAがホームタウン認定交流事業を撤回
JICA(国際協力機構)は9月25日付で、「JICAアフリカ・ホームタウン」構想について撤回の方針を発表しました。当初は「第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)」に合わせ、国内4市とアフリカ4か国の間で文化・教育や人材面の交流を進める趣旨でしたが、発表後に誤解に基づく抗議が相次ぎ、自治体の業務に過度な負担が生じたことが撤回理由として挙げられています。
本来、日本とアフリカを結ぶための交流事業が、なぜ正しく広まらなかったのか? 塚越さんと考えます。
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ユージ:塚越さん、まず「ホームタウン」認定交流事業の本来の目的は何だったのでしょうか?
塚越:経緯を簡単に振り返ります。まず、8月に「第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)」が開かれました、それに合わせてJICA(国際協力機構)が発表したもので、国内4つの自治体とナイジェリアなど4つの国がパートナーとして認定されました。
アフリカと日本の関係は長く、今回は教育や文化・産業・人材面の交流を目的に、友好都市よりもより多くの連携をするということで、ホームタウンという言葉を使いました。もちろん移民の受け入れや特別なビザ発行は含まれません。
吉田:では、どんな誤った情報が広まってしまったのでしょうか?
塚越:大きなところでは、ナイジェリア政府が政府発表として「特別なビザが発行される」といった誤った情報を流してしまって、イギリスの公共放送局・BBCなどもこれらを報道してしまいました。これが大きかったのかなと思います。日本からの声明を受けて該当の文言は削除されましたが、日本のSNSなどでこの情報が拡散されました。
これを受け日本では、ホームタウン認定交流事業が移民促進事業であると誤解した人たちによる「アフリカから移民が押し寄せる」「治安が悪化する」といった誤情報が拡散。日本政府やJICAも訂正したものの、自治体への抗議が殺到したり、JICA本部の前で抗議デモが起きたりと、いわゆる「炎上騒動」になりました。
個人的には、「ホームタウン」という名前や、相手国に情報伝達がうまくいっていなかったことが問題として挙げられると思います。相手国に誤った情報発信をしてしまったというところで、このあたりはちょっと大きかったのかなと思います。
◆誤情報拡散の背景にあるのは「不安」?
ユージ:最近特に、こういった誤情報の拡散が目立つように感じますが、その背景には何があるでしょうか?
塚越:急激にインバウンドも増えて、街で外国の方を見かける機会が増えたことにつれて、「外国人」という言葉に対する感覚が変わってきました。
実際、今回「ホームタウン」の言葉が含まれたXへの書き込みは、8月後半からの1ヵ月で、リポストを含めると441万件と非常に多いです。全体としては、やはり経済的な不安を背景にした(外国人に対する)一種の思い込みや、意図をもって拡散したインフルエンサーなどの働きかけも背景にあったかなと思います。
ただ私は、政府の問題もあると思います。日本政府はポジティブな多文化共生を周知してこないまま、現在まで至っています。外国人に関しては、これまでずっと経済的な側面だけを重視して、技能実習生などを事実上の移民労働者として認めず、まさしく経済的な動機だけで受け入れてきました。彼らが日本人とどう一緒に暮らすかなど、こうした問題に真剣に向き合ってこなかったこれまでのツケもあると思います。
どんな政策を掲げたとしても、結局現場の実務は地方自治体やNGO、NPOに任せることになります。政府は適切な橋渡しができず、サポートできないので現場も混乱します。
一方の国民も「多文化共生」という言葉だけを掲げられても、実際、海外の人とどう暮らしていくのかなど対応には戸惑いますし、トラブルも起きていて、それらすべての対応が現場任せになっているわけです。
こういう状態のなかでいろいろと不安が募り、何かしらのバイアスがかかった結果、誤った情報であると気づかずにこういう情報に飛びついてしまうこともあるでしょう。もう少し海外との関係も考えないといけませんし、周知する必要があります。
日本はアフリカから尊敬されているのですが、こうしたことがあると関係に傷がつきます。中国がどんどんアフリカと関係を深めているなか、日本はいわば、“オウンゴール”のような感じになってしまって残念だなと思います。
あとは、アフリカと日本はとにかくつながりが深くて、日本には2~3万人のアフリカの人がいます。中古車をアフリカに売る貿易の方もたくさんいて、アフリカでは国によっては(国内で流通している)7割以上が日本車で、「日本の車はいい!」と評価されています。
安倍元総理は2013年に「ABEイニシアティブ」という政策を打ち出して、アフリカの留学生を受け入れ、日本企業でインターンをしてもらったのち、彼らはアフリカに帰りました。アフリカへ戻った留学生たちのなかには、日本とのビジネスを前提にして起業した人もいます。安倍元総理時代は、そうした交流をたくさんおこなっていました。こうした交流は非常に大事だと思います。
ユージ:正しい情報が、間違った情報に潰されてしまうような時代でもありますね。発信する側・受け取る側は、何を考えればいいでしょうか?
塚越:受け取る側に大事なのは、リテラシーだと思います。今回の件は、いろいろな問題がありました。これからは、隣に生きている外国人とどうやって生きていくか、それを政府や国が周知していく必要があります。トラブル対応も含め、我々もいろいろな議論をして、少しずつでいいので受け入れていく、一緒に考えていく。そうした気持ちを国が持たないと、私たちも受け入れる気持ちになっていかないので、ここを大事にしてほしいなと思います。
<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世