ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。
今回のテーマは、前回に引き続き「全米に広がる大学での親パレスチナの抗議行動についてNYのZ世代の本音直撃」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、ガザ抗議デモを排除する大学と警察の対応について語り合いました。
※写真はイメージです
◆大学側の“抗議活動対応”は学生への脅迫か
米国各地の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃に抗議するデモが広がっています。
以前の抗議活動は平和的な集会でしたが、その後警察の介入が相次ぎ、暴力が発生し逮捕者も増えました。そもそも、大学が急に取り締まりを始めたのは、抗議行動がユダヤ人に対する憎悪や敵意をあおる“反ユダヤ”であり、「ユダヤ人の学生に被害が及んでいる」という批判を浴びたからです。
しかしながら、学生たちは「抗議活動はイスラエル政府に対するもの。ユダヤ系の人々を攻撃しているものではない」と主張しています。
では、暴力の部分に関してはどう考えているのでしょうか。親パレスチナ運動は本当に暴力的なのか、ニューヨーク・コロンビア大学とほぼ同じ時期に運動がエスカレートした、ニューヨーク市立シティカレッジの学生であり、ラボメンバーのミクアの見解から。
ミクア:暴力が起きたことは悲しいよ。たくさんの学生が逮捕されているのもよくない。でも、平和で何も起こっていないときから警察は来ていたんだ。大学の運営側は明らかに抗議活動に賛同していない。学生たちがキャンパスにキャンプを張ることに対して「学校の安全を侵害している」「大学の方針に違反している」という口実で排除しようとしている。
そして、彼らはそれを利用して警察を呼び、文字通り学生を腕ずくで追い出そうとしたり、テントを壊したりした。もはや、何が起こっているかに関係なく、学生たちをただキャンパスから追い出そうとしている。
私は今回の抗議行動自体はいいことだと思ってる。それなのに、悪いこととして報道されているのが残念。大学側も卒業式などの行事を取りやめたり、授業をオンラインにしたりしているのは、デモ活動などをよく思わない学生とのあいだに「対立」をあえて作ろうとしてやっているんだと思うな。
ノエ:そういえば、コロンビア大学の公式の投稿を見たよ。文字通り学生への脅迫で、丁寧に書かれていたけれど、あれは脅しの内容だった。「停学になったり卒業できなくなったりするよ」なんていう脅しをかけていたからね。
大学側は何かと口実を作って警察を呼んで、権利を取り上げることで生徒同士の分断もはかっています。それは学生たちが大学に求めている“イスラエルに関連する企業への投資を止めるのが難しいから”では? という声もあります。ラボメンバーの言葉から、大学に対する不信感が伝わってきました。
◆警官が必ずしも“善”の立場にいるわけではない?
ラボメンバーは抗議活動に対するメディアの報道、もちろん警察にも強い不信感を抱いています。その理由について語ってもらいました。
ミクア:まず、この運動は暴力的だというのは誤解だと思う。メディアでは暴力の場面だけが流れて、平和的な場面や何も起こっていない場面は決して見せないでしょう?
当初、人々は話し合いをしたりシュプレヒコールを上げたりしているだけで、暴力は一切なかった。その後警察がやってきて一方的に暴力的に取り締まった。逮捕される人や地面に倒れている人のビデオを見ると、最初からそう(暴力的)だったかのように映るでしょう?
警察官はただ自分の仕事をしているだけって言うかもしれないけど、そうではなかった。特に多くのピープル・オブ・カラー、非白人のニューヨーカーは、警察に対してかなり敏感に反応するからね。だから、警察を巻き込んだせいで、状況はますます悪化したと思う。
ノエ:一方的に学生が暴力をふるっているように見えるとしたら、それってすごく“日本的な視点”じゃないかな。つまり、警察がそこにいたら、何か問題があったに違いないという日本的な考え方だよ。日本はどこよりも平和な国で、警官に殺されるとか、ひどく傷つけられる可能性が少ないよね。そういう個人的な経験もないし、怖さを理解することが難しいと思う。
世界中で警官が違法な力を行使し、理不尽な強制をされることがある。アメリカはそれが特にひどい。特にここ数年、警官の不法行為にはかなりスポットが当たっている。だから学生たちも、あまりいい反応をしていないのかもね。
2020年の「ブラック・ライブズ・マター運動」のきっかけになった、警官によるジョージ・フロイド殺人事件。あれ以来、警察の評判は悪くなったままです。特にマイノリティのなかには、警官を見るだけで怖いと言う人も少なくありません。
日本とアメリカでは警察に対する心象が大きく異なります。「警察が来ただけで学生側に非があると思ってほしくない。そして、メディアも暴力発生の場面だけでなく、活動の目的をきちんと伝えてほしい。彼らはそう強く願っています」とZ世代評論家のシェリーは声を大にします。
(左から)ミクア、シェリー、ヒカル、ノエ、シャンシャン、メアリー/©NY-Future-Lab
◆退学のリスクがあるなかで抗議を続ける理由
抗議する学生たちは、大学から停学処分や逮捕の可能性もある、卒業式に出られないかもしれない、というような警告を受けています。まさに、これからのキャリアや夢を叶える第一歩である大学で、活動に参加することで夢が遠くなってしまうかもしれない状況下にいます。それでもなお、講義を続ける理由はどこにあるのでしょうか?
ミクア:彼らはただの反抗的な十代の若者ではありません。知識もあり、停学になったり逮捕されたりするリスクも理解しています。だけど、これは個人よりもずっと大きな問題です。
私たちの授業料が殺戮に使われていることは倫理的な問題。卒業して学位を取ることより、はるかに大きな問題なんです。
前回の放送で、アメリカの学生たちは「自分の通う学校の授業料がイスラエル支援に加担しているのでは?」という当事者意識を持って抗議活動をおこなっているとお伝えしました。リスクをおかしてまでやる意味があるということを伝えるために、学生たちは行動を起こしています。
Z世代は共感力が強い世代と言われ、それだけに社会正義にも敏感で、自ら行動を起こすことでも知られています。ある意味、自分たちがそういうリスクをおかすことができる“特権”があるのだと理解しているのかもしれません。
シェリーは「だからこそ、『自分たちがやらなければ』と感じるんだと思います」と補足し、話題を締めくくりました。
<番組概要>
番組名:NY Future Lab
放送日時:毎週水曜日18:40~18:55放送
出演:シェリーめぐみ
番組Webサイト: https://www.interfm.co.jp/sensor/
特設サイト:https://ny-future-lab.com/