放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。今回の放送は、俳優の室井滋さんをお迎えして、名作ドラマの舞台裏、演劇の世界に飛び込んだきっかけ、そして現在進行形の多彩な活動に迫りました。
(左から)パーソナリティの小山薫堂、室井滋さん、宇賀なつみ
◆「やっぱり猫が好き」の舞台裏
俳優として、エッセイストとして、そして絵本作家として、あらゆる分野で唯一無二の存在感を放ち続ける室井滋さん。その飾らない人柄と、どこかユーモラスで温かい語り口は、いつも私たちを不思議な魅力で包み込んでくれます。
室井さんは富山県生まれ。早稲田大学在学中に演劇サークルで芝居を始め、自主映画の女王と呼ばれるようになります。1981年、映画「風の歌を聴け」で劇場映画デビュー。以降、ドラマ「やっぱり猫が好き」を始め、数々の作品で独自の存在感を放ってきました。俳優業のほか、エッセイスト、絵本作家としても活動。2023年4月からは、富山県立高志の国文学館の館長を務めています。
室井さんの代表作といえば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが伝説のシチュエーションコメディドラマ「やっぱり猫が好き」(フジテレビ系)ではないでしょうか。「浦安に本当に住んでいるんじゃないか、あるいはドキュメンタリーじゃないかと本当に思われている方とかいらっしゃいました」と、が思わず引き込まれるほど、リアルな空気感が漂っていました。あの独特な雰囲気を生み出していたのは、一般的なドラマとは明らかに異なる撮影手法にあったようです。
「普通のドラマのようにシーンが細かく分かれていなくて、前半と後半の2ブロックだけ。一度もカメラを止めない長回しで撮影がおこなわれました。だから、途中でセリフを間違えてもそのまま演技を続けていたんです」と当時の現場を振り返ります。
また、後に売れっ子脚本家として名を馳せる三谷幸喜さんとの出会いもこの作品でした。当初は複数のライターがプロットを持ち寄るワンセットドラマでしたが、そこへ「彗星のごとく」現れたのが三谷さんだったといいます。彼が書き下ろす圧倒的に面白い脚本が、室井さんたちの魅力を極限まで引き出していきました。
◆父親のユニークな教育と、女王と呼ばれた時代の挫折
室井さんの表現者としての原点を探ると、幼少期からのユニークな環境が見えてきます。富山で生まれ育ち、初めて東京へ足を運んだのは中学3年生のとき。なんと、学校をサボって父親の「お見合い」に付き添うためでした。しかも、せっかくの東京なのにお見合いの付き添いだけではもったいないと、新宿の寄席「末廣亭」に足を運んだところ、偶然テレビの公開生放送のカメラに大映しで抜かれてしまうハプニングが発生。地元・富山にその姿がバッチリ放送され、サボりが一発でバレてしまったというエピソードは、まさに室井さんらしいコミカルな逸話です。
そんなお父様は、室井さんの教育に対して非常に独特な考えを持っていました。「夜中に出歩いて、映画や芝居を観ても構わない。ただし、観たものの日時や内容をきちんとノートに記録すること。その代わり、お芝居、映画、本に関することなら、いくらでもお金を使ってもいい」というスタンス。こうした父親からの課題が、自然と彼女の表現への感性を養っていきました。
その後、高校の「3年生を送る会」で、陸上部所属でありながら劇の演出を手掛け、「結構皆さんの注目を集めたんですよ。それがとても気持ち良かった」と、拍手喝采を浴びた快感が忘れられず、早稲田大学進学後に演劇の世界へと飛び込むことになります。
大学時代には数々の8ミリ映画に出演し、「自主映画の女王」とまで呼ばれるようになった室井さんは、大森一樹監督の映画「風の歌を聴け」で華々しくプロデビューを飾ります。しかし、順風満帆に見えたキャリアの中で、仲間内だと思っていた監督の商業映画に出演の声すら掛からなかったのです。「劇団のような甘えがあったのかもしれません。そのときに『子供の延長ではいられない。ゼロからやり直すんだ』と突きつけられました。あの瞬間、本当の意味で大人になった気がします」と室井さん。この経験こそが、本物のプロフェッショナルへと脱皮させる重要な転機となりました。
室井滋さん最新エッセイ「背中合わせの恐怖」(金の星社)
◆言葉を届ける絵本ライブと、文学館館長としての顔
現在の室井さんは、俳優の枠を飛び越え、さらに広い世界で言葉を届けています。特に情熱を注いでいるのが、自身の原点でもある「朗読」を活かした絵本作家としての活動です。自身の幼少期をモデルにした絵本「しげちゃん」は、小学校5年生の道徳の教科書に採用されるなど大ヒットを記録。現在は、絵本作家の長谷川義史さんや音楽家たちと共に「しげちゃん一座」を結成し、座長を務めながら全国で年間30ステージに及ぶ絵本ライブを開催しています。
「他人の作品ではなく、自分の言葉で書いた著作物を直接皆さんの前で朗読できる。それが本当に楽しいですね」と笑顔を見せる室井さん。さらに、2023年からは故郷の富山県立「高志の国文学館」の2代目館長に就任。「令和」の考案者として知られる中西進先生の後を継ぎ、月に1週間から10日ほど富山に滞在しながら、敷居が高くなりがちな文学館を「誰もが気軽に立ち寄れる場所」にするための架け橋として奔走しています。
日常のあらゆる出来事を面白がる室井さんのアンテナは、エッセイ執筆にも生きています。最新エッセイ「背中合わせの恐怖」では、自身の不思議な霊感体験をユーモラスに綴っています。最後に、これからの挑戦として「今までにやったことのないような新しい役柄も演じてみたいし、絵本ライブも、富山での活動も、もっともっと深めていきたい」と語る室井さんでした。
<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/post/
番組公式X:@sundayspost1