笹川友里がパーソナリティを務めるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。10月10日(土)の放送は、九州大学大学院 システム情報科学研究院 教授で、工学博士の荒川豊(あらかわ・ゆたか)さんが登場。荒川さんが取り組むAIを活用した「人の行動を認識する研究」について話を伺いました。
(左から)荒川豊さん、笹川友里
荒川豊さんは1977年、福岡県生まれ。2006年に慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程を修了後、慶應義塾大学や九州大学で助教を務め、奈良先端科学技術大学院大学の准教授を経て、2019年から九州大学大学院システム情報科学研究院の教授を務めています。
途中、フランス、ドイツ、アメリカに留学。また、九州大学・ICT行動変容研究ユニットのユニット長をはじめ、情報処理学会理事、SDGsデジタル社会推進機構理事などを務め、2023年には、科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞を受賞しました。
◆iPhoneの登場で研究分野を変更
荒川さんはIoTやAIを活用し、人の行動を認識したり、より良い行動を促したりする研究に取り組んでいます。身近な例として挙げられるのが、スマートフォンやスマートウォッチに搭載されている歩数計です。「歩く」「階段を上る」「走る」といった動きを認識する技術を深掘りし、より細かな動きを認識できる技術の実現を目指しています。
もともと学生の頃は光通信の分野を研究していたという荒川さん。現在の分野に進む転機となったのは、30歳頃にiPhoneが登場したことでした。「2008年くらいのことなんですけど、『あ、これは時代が変わるな』と思って、研究分野をiPhone上で動作するソフトウェアやセンシングに変えました。通常、博士号を取って先生になってから分野を変えるケースはなかなかないんですけれども、私の場合は学生時代にソフトウェアで起業したり、それを売っていた経験もあったので、できるんじゃないかと思ったのが始まりです」と振り返ります。
その後は大学を移り、知見を広げるためにフランスやドイツへ留学。そこから5年ほどかけて、現在の「人の行動を認識する研究」にテーマを固め、さらに専門性を深めるためにアメリカの大学にも留学しました。この経験について、「教員になってから奨学金をもらって3回留学させていただくのは、かなり珍しいと思います。非常に恵まれました」と語ります。
◆“小型センサー”が広げるセンシングの可能性
荒川さんの研究テーマの1つに、センサーを使って人や物の動きを捉える「センシング」があります。その成果の1つが、世界最小クラスのセンサー「SenStick(センスティック)」です。幅約1cm、長さ約5cmと小指ほどの大きさながら、8個のセンサーを搭載しています。
開発の背景について、「行動認識の研究をしていた当時から、スマートフォンのなかのセンサーをよく使ってたんですね。ただ、スマートフォンって大きいじゃないですか。 でも、もっと細かい物の動き、例えば、持っているペンや卓球のラケット、剣道などの動きを捉えたかったんです。あと、メガネにセンサーを付けたいときに小さい物がなかったので作った形です」と説明します。そして、国の研究予算を獲得できたことを機に、オリジナルのハードウェアづくりを進めました。
また、センシング技術を活用して、心の状態を推定する研究にも取り組んでいます。例えば、スマートウォッチなどで計測できる心拍や動きのデータを使って睡眠状態を推定する研究のほか、センサーとAIを組み合わせて、人のストレスや心の状態を推定する技術の研究も進めています。一方、荒川さんによると、現状では心の状態を読み取るところまでは実現できていないといいます。その課題の1つが、心の状態を推定するための「正解データ」をどのように得るかという点です。
「我々がセンシングで測れるのは、腕の動きや心拍のほか、日中のGPSの移動、スマートフォンの電池残量、通信量、こういったものしか逆に言うと取れません。これら自体はストレスを表すものじゃないので、その結果から推定するということになるんです。つまり、『この数字がこうだったときは、私はこうだったよ』という組み合わせがたくさん貯まってくると、同じような組み合わせになったときに『きっとそうなんじゃないか』と、心の状態を推定していく研究になります」と解説します。
なお、この研究を進めるためには、センサーで取得したデータと本人の心の状態を結びつける情報を継続的に蓄積する必要があります。しかし、職場のストレスチェックは年に1回程度のアンケートが中心で、こうした情報を十分に蓄積することが難しいという課題もあることを明かします。
◆チャット履歴から心の状態を推定
そのほか、SlackやTeamsといった職場のチャットツールの履歴から、社員のストレスや仕事への満足度を推定する研究にも取り組んでいます。
その際、荒川さんが注目したのは、スタンプの使い方や返信にかかる時間です。「言葉を見ると中のことがバレてしまいますし、例えば、会社ですごく良いことがあったのに、どうしても『いいね』を押せない人がいたときに『メンタルに何かあるのかな』とか、そういうのを推定する研究をしています。オンライン上でもいろんな動きが取れるので、そういったところも観察していますね」と語ります。
一方、こうした技術を職場に導入することは、監視につながるのではないかという懸念もあります。社員と会社の双方にとって望ましい形で社会に実装することが、行動変容の難しさでもあると指摘します。
荒川さんは、人の行動や心の状態を推定する技術の可能性を追求するとともに、その成果を人と社会にとって望ましい形で活用する方法を探っています。
次回10月17日(土)の放送は、引き続き荒川さんをゲストに迎えて、お話を伺います。
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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/