復興が進む福島のスタディツアーに参加した皆さんと、パーソナリティのユージを囲んで
2025年11月16日(日)放送の、TOKYO FMサンデースペシャル「Hand in Hand 〜福島復興の歩みとスタディツアーレポート〜」(パーソナリティ:ユージ)。毎週金曜日に放送している復興応援プログラム「Hand in Hand」の内容を拡大して、復興へ歩む福島の「今」を、リスナーのみなさんと共有するプログラムです。
今回の特番では、「Hand in Hand」8月からの番組ハイライトと、10月にリスナーのみなさんと福島を旅したスタディツアーの模様をお届けしました。
◆箭内道彦「自分のなかにある福島が苦手だった」
「Hand in Hand」では、今期から新企画「福島サポーターズ」をスタート。福島県ゆかりの著名人に、ふるさと福島への思いを語っていただきます。初回に登場したのは、郡山市出身のクリエイティブディレクター・箭内道彦さん。広告クリエイティブとエンターテインメントの力で、福島復興の現在地と“魅力”を発信し続けています。ここでは、本放送でお届けしきれなかったインタビューの模様を紹介します。
サンボマスター・山口隆さんなど 福島県出身者で結成したバンド、猪苗代湖ズのメンバーでもある箭内さん。震災直後にリリースした「I love you & I need you ふくしま」は、原発事故による避難で不安な日々を送る福島の人たちを勇気づけました。
一見すると郷土愛あふれる取り組みに思えますが、意外にも箭内さんは「福島に対する愛情と反発の両方がずっと(あった)。自分のなかにある福島が、自分で苦手だった」と吐露します。
しかし、あるとき福山雅治さんから「自分も(出身地の)長崎が嫌いだったときもあるけど、それは自分のことが嫌いだったんだ。できないことを長崎のせいにしている自分に気がついたんだ。箭内さんもきっとそうですよ」と諭されたことで、自身の考えが徐々に変わったのだそう。
「確かにそうかもしれない」と思っていたところに東日本大震災が発生し、「さんざん福島のことを『ああだこうだ』言っていた自分が、故郷がこうやって大けがをしたときに何にもできないって、いちばん格好悪いなって思った」と、その思いが復興支援や福島を盛り上げるためのイベント実施などのモチベーションにつながっていると話してくれました。
箭内道彦さん
◆「米粉バウムクーヘン」で目指す復興
10月の「Hand in Hand」では、富岡町のバウムクーヘンのお店「BAUM HOUSE YONOMORI」を特集。店主・遠藤一善さんのインタビューをお届けしました。ここでは、本放送ではお届けしきれなかった内容を深堀りして紹介します。
富岡町、桜並木で有名な夜の森地区で生まれ育ち、震災前は地元で建築事務所を構えていたという遠藤さん。震災以降、町から建物が消えていく様子を目の当たりにし、にぎわいを取り戻すために何かできないか、と考えていたといいます。復興を考えるなかで、富岡の基幹産業でもある“お米”を活かした特産品として、“米粉を使ったバウムクーヘン”を思いついたとのこと。避難指示解除になった年の夏に、バウムクーヘン専門店である「BAUM HOUSE YONOMORI」を開店しました。
もともと古い建物が好きだという遠藤さん。震災を経て、「少しずつ建物がなくなっていくのを見てきたなかで、やっぱり何とかしたいと。生まれ育ったところなので、ここをなんとかしたいという気持ちは心のなかにあったんです」とその心境を打ち明けます。
商工会の話し合いで、地域を盛り上げるための特産品を作りたいと、“米粉を使ったバウムクーヘン”を思いついたものの、最終的に「誰がやるのか」と協議は難航しました。バウムクーヘンを作るための機械は製造工程がほぼ自動化されており、未経験者でも取り扱えることを知り、発案者の遠藤さんがお店を開くことに。「もともとものを作るのは好きだったので、そういうような形で始めることになりました」と、お店がオープンするまでのいきさつを話してくれました。
2023年夏にお店をオープンし、現在では福島の浜通りに増えてきたフルーツ栽培農家とのコラボレーションも積極的におこなっています。遠藤さんは今後のコラボレーションの可能性について、「いろいろ考えています。楢葉町には柚子がある。町内にレモンを作っている人がいるんですけども、まだ作り出したばっかりなので、ちょっと考えながら(進めたい)」と、展望を語ってくれました。
◆「Hand in Hand福島スタディツアー」を実施!
10月に番組が実施した「Hand in Hand福島スタディツアー」には、約20名のリスナーが参加し、1泊2日の日程で福島県内のさまざまな場所を訪ねました。
初日にまず訪れたのは、福島駅から歩いてすぐの場所に位置する「環境再生プラザ」。東京電力福島第一原発の事故のあとの福島県の環境回復の歩みや、放射線、中間貯蔵などの環境再生に関する情報を発信している施設です。
「環境再生プラザ」の青木仁アドバイザーから原発事故からの環境再生の歩みについて話を伺う参加者の皆さん
環境再生プラザで復興の歩みを学んだあと、一行は相馬市へ。“常磐もの”の鮮魚も取り扱う「浜の駅松川浦」では、あおさのりや「おびすやのピリカラ青のり佃煮」などのお土産を購入しました。
◆“地元を守りたい”思いから未経験の農業にチャレンジ
続いてスタディツアーでは、浪江町発のブランド野菜として知られている「サムライガーリック」を生産する、吉田さやかさんの元を訪れました。
吉田さんは浪江生まれ、浪江育ち。東日本大震災と原発事故による避難生活を経て、2020年に浪江町に戻り、それまで経験がなかった「農業」に挑戦。にんにく栽培を本格的に始め、トライ&エラーを繰り返しながら「サムライガーリック」と命名された独自のにんにくが誕生しました。
吉田さんのお宅は、明治4年に建てられた家屋をリノベーションした建物です。東日本大震災のときに瓦が1枚も落ちなかったほど頑丈な建物で、吉田さんは「この家を守っていきたい」という思いからリノベーションし、現在は「和坐(わざ)」という名前で、レンタルスペースとしても活用しています。
「サムライガーリック」の吉田さやかさんの話に耳を傾けるユージ
なぜ、吉田さんはこの場所で農業を続けるのでしょうか。吉田さんは1000年以上続く「相馬野馬追(そうまのまおい)」というお祭りが、その思いのルーツであると語ってくれました。
甲冑を身にまとった騎馬武者たちが約400頭集結して、甲冑競馬や神旗争奪戦という神事である、このお祭り。吉田さんは「私たち家族も代々参加していて、このお祭りのために自分の馬を持っている方が、この地域にはすごく多くて、それがこの地域の原風景になっていたんです」と話しますが、震災後はその数も減っているのだそう。「この伝統文化をやっぱり継承して守っていきたいと思っているので、今でも馬を飼って馬と一緒に生活しています」と語ります。
そうした地元への愛から、生まれ育った浪江町に貢献したいという思いが湧いてきたという吉田さん。「せっかくこのお家もあるし、先祖が代々残してくれた農地も6ヘクタールぐらいあるんですけど、それを私たちの代でなくすわけにはいかないし、できることならチャレンジしてみようということで、農業という道を選択しました」と、農業の道を選んだ理由について明かしてくれました。
吉田さんの手掛ける「サムライガーリック」は、すでに県内外の飲食店からも注文が舞い込んでおり、加工品の「黒にんにく」や「コーラシロップ」も人気です。スタディツアーではこちらの「サムライガーリック」を使ったお弁当を頂きました。
サムライガーリックを使ったにんにく味噌のおむすび弁当
ランチのあとは、2021年にグランドオープンした浪江町のランドマーク「道の駅なみえ」へ。「なみえ焼そば」や請戸漁港直送のシラス丼などが味わえるフードコートや、野菜・海産物を扱うショップがあり、参加者の皆さんは鈴木酒造店の日本酒や「飲める本みりん」として話題の『黄金蜜酒(こがねみつざけ)』を購入したり、甘酒ソフトクリームを味わったりと、「道の駅なみえ」の魅力を存分に楽しんでいました。
浪江町のランドマーク「道の駅なみえ」
その後、東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故についての記録や教訓、復興のあゆみを伝える、双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪れ、職員の方からのお話を聞きました。
◆「震災の記憶を風化させない」熱い思いを伝える
スタディツアー初日の最後に訪れたのは、双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」。迎えてくれたのは、職員の横山和佳奈(よこやまわかな)さんです。浪江町請戸地区出身の横山さんは、“地域のために力を尽くしたい”という思いから、現在は伝承館の職員として働いています。
横山さんは東日本大震災の津波で祖父母を亡くしており、「なぜ2人は亡くなってしまったのか、なぜ助からなかったのか、どうすれば助かったのか、それをみなさんに伝えたい」と、ツアー参加者に向けて話します。
「私みたいに悲しい思いをする人が1人でも減ってほしいと思いますし、みなさん自身も命が助かってほしい」と話す横山さん。“今まで大丈夫だったから、今回も平気なはず”という気持ちから、災害が起きても避難をためらってしまう人は多くいます。
さらに、震災後に生まれ育った人たちも増えつつあり、若い世代の間ではそもそも震災や津波の危機感を共有しきれていない現実もあると話す横山さん。震災の記憶が風化していくことに対し、危機感を抱いています。
「若い世代の子たちにどう伝えるか、どうやったら興味を持ってもらえるかは、かなり大きな課題だと感じています。ぜひ、今回来てくださったみなさまも、自分の目で見て何を感じたのかを周りの方にも伝えてほしいと思っております」と、ツアー参加者に向けてメッセージを送りました。
(左から)パーソナリティのユージ、「東日本大震災・原子力災害伝承館」職員の横山和佳奈さん
展示や映像に見入るユージと参加者の皆さん
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1泊2日のツアーでは他にも多くの場所を訪れましたが、行程を経て参加者からは「見たもの・聞いたもの、いろんな人の思いとか感じたものを今度は伝えられればいいなと思っています」「14年という月日がきちんと福島では流れていて、前に向かっている姿を見られてよかったです」「新たな産業を起こそうとしている地元の方たちや、この地域に関心を持って集まっている大勢の学生さんたちの姿を見て、明るい未来を感じることができました」という感想が寄せられました。
ツアーに参加したユージも自身の学びが深まったと述べ、「福島には楽しいところ、おいしいものもたくさんあります。福島ってこんなに魅力的なんだ、そしてなによりも安全なんだということを、もっと多くの方に知ってもらいたいと改めて感じました」とコメントしました。
12月6日(土)には、千葉県千葉市のイオンモール幕張新都心にて「知って、学んで、行ってみよう! ふくしま@イオンモール幕張新都心」を開催。「Hand in Hand」もステージイベントの1つとして公開収録を実施します。福島の生産者を招いてのトークショー、熊木杏里さんのライブなど、さまざまなイベントをおこなう予定です。ぜひご参加ください。
<番組概要>
番組名:Hand in Hand 〜福島復興の歩みとスタディツアーレポート〜
パーソナリティ:ユージ
放送日時:2025年11月16日(日) 19:00~19:55
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/hand/