放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。今回の放送では、「全日本盲導犬使用者の会」会長の山本誠さんをゲストに迎えて、お届けしました。
(左から)パーソナリティの小山薫堂、山本誠さん、カエデちゃん、宇賀なつみ
◆盲導犬のはじまりを紹介
1916年、第一次世界大戦中に失明した退役軍人を支援するため、世界初の盲導犬訓練学校がドイツにて設立。日本では1938年に、アメリカの青年ゴルドン氏が盲導犬を連れて来日し、講演をおこなったことで盲導犬の存在が広く知られるようになりました。
その後、1939年にドイツから4頭のシェパードが盲導犬として導入され、1957年には日本発の国産の盲導犬が誕生。1967年に日本盲導犬協会が設立され、盲導犬の育成と普及が本格的に進められるようになりました。
今回の放送では、全日本盲導犬使用者の会の会長・山本誠さんと、そのパートナーである盲導犬・カエデちゃんをお迎えしました。静かに入ってきたカエデちゃんに、小山は「まったく吠えませんね」と驚きの声を上げます。「危険なときには吠えて教えてくれるんですか?」という質問に、山本さんは「もともと盲導犬は危険な目に遭わないように仕事をしているので、そういったことが起こらないんです」と、穏やかに答えます。
現在、56歳の山本さんは生まれつき目の病気を抱え、14歳のときに視力を失ったそうです。盲導犬と暮らし始めたのは15年ほど前。それまでは白杖を使って歩いていたといいます。盲導犬との生活に山本さんは「たとえて言うのなら、自転車と車の移動ぐらい快適さが違います。盲導犬のことは昔から知っていたのですが、実際に暮らしてみると格段に(違った)」と感想を述べました。
◆盲導犬との生活で変化したことは?
盲導犬とともに生活を始める前には、「共同訓練」と呼ばれる期間があります。これは、ユーザーと犬が互いを理解し、安全に歩けるようになるためのステップです。「相性や歩くスピードだったりとか、いろんなことを協会の訓練士さんが見て判断をして、マッチングをしてくれる期間が必要です。1ヵ月間とか3週間くらいとか、人によって違うんですけども、犬と一緒に協会で住み込みで訓練をするんですね。訓練士さんがGOサインを出したら、私たちは一緒に歩けるんです」と山本さんは説明します。
パートナーを迎えたことで起きた一番の変化に、山本さんは「外に出ることが楽しくなりました」と話します。それまでの生活では、目的がないと外に出ないことが多かった山本さんでしたが、盲導犬との生活で、散歩も兼ねて外に出る機会が生まれたといいます。「外に出ても安全性が高ければ苦にならないです」といいます。
カエデちゃんの犬種はラブラドール・レトリーバー。性格や体格面などが盲導犬に適していることから、現在国内では主にラブラドール・レトリーバーがもっとも多く活躍しています。
「人と一緒に何かをするのが好きな犬種なんですね。歩いたりすることが仕事なので、この子たちが一番適しているんじゃないかなと思います」と山本さん。また、かわいらしい顔立ちから子どもが受け入れやすい点も挙げ、「たとえば、電車を使うときに“かわいい”と言ってくれれば乗りやすくなります」とコメントしました。
◆盲導犬を“かわいそう”とは思わないで
盲導犬の仕事は一生続くわけではありません。年齢を重ねると反応の速さや判断力に影響が出てくるため、10歳前後で引退するのが一般的です。「犬にとっても私たちにとってもよくないので、10歳で元気なうちに引退してもらうという制度を取っています」と山本さんは解説します。
引退した犬は、「引退犬飼育ボランティア」をはじめとする、引退した盲導犬を家族の一員として迎えてくれる人々の手にわたります。「なかにはパピーウォーカーさんのところに戻る犬もいます。そういった再会があると私たちもホッとしますね」と、山本さんは笑顔を見せます。
続いて、山本さんから盲導犬ユーザーとして、社会に対して知っておいてほしいことを伺いました。盲導犬、聴導犬、介助犬などは、身体に障害のある人をサポートする“補助犬”と呼ばれています。そのなかで、働いている犬を“かわいそう”だと感じてしまう人も少なくありません。
しかしながら、山本さんは補助犬との関係が決して一方的なものではないとして、「補助犬は、無理やり仕事をさせられているわけではありません。自分から進んで“一緒に歩こうよ”と、私たちを外の世界へ連れ出してくれているんです。だから、この関係は決してネガティブなものばかりではありません」と話します。
関わり方次第で、犬の見え方も変わってきます。周囲の人が優しい目で見守ることで、犬たちの表情もきっと柔らかく映るように感じられるでしょう。「盲導犬は楽しんで仕事をしているんだということを、一番に知ってもらいたいなと思います」と山本さんは呼びかけました。
また、街中で働いている盲導犬への接し方についても注意喚起します。盲導犬は、視覚に障害のある方のサポートに集中しています。もともと人懐っこい犬なので、触られてしまうと仕事への集中が途切れてしまい、場合によっては危険につながることもあります。触らずにそっとしておくのが私たちのできる気配りです。
さらに、じっと見つめるだけでも犬の気がそれてしまうため、“優しい無視”をしてほしいと山本さんは話します。写真撮影についても、「ユーザーさんに一声掛けていただきたいです。勝手に撮影すると盗撮になってしまいますので」と配慮をお願いしました。
盲導犬のカエデちゃん
◆生活を支えるパートナーに感謝のメッセージ
当番組では、ゲストが思いを伝えたい人に向けて“手紙”を読むコーナーがあります。山本さんは、常にそばで支えてくれる“カエデ”に向けてメッセージを伝えました。手紙は宇賀が代読をおこないました。
<山本誠さんの手紙>
親愛なるパートナーのカエデへ。いつも傍にいて、私の足元の安全をしっかり守ってくれてありがとう。カエデがいるだけで、どんな場所でも安心して歩くことができるよ。
仕事はつらいですか。大変ですか。そんなことないよね。尻尾をふりふりして歩いている様子や、段差や曲がり角をきっちり決めたとき、グッドと褒めると全身で喜びを表現してくれるよね。それを見ていると、きっとカエデは楽しみながら仕事をしているんだと確信します。
白杖の頃は外出するたびに物にぶつかり、ケガをしたり、車の走行音に恐怖を覚えていました。外を歩くことが憂鬱になっていたけれど、君たち盲導犬と歩くようになってからは、外に出かけるのが楽しいよ。不安感も恐怖感も忘れちゃいました。
でも、旅行や出先では楽しいことばかりではないよね。世間では、君たちのことを知らない人も多く、ときどきお店や施設に入れてくれないこともあるよね。そんなとき、カエデがどんな犬なのかを知ってもらえるよう、僕は一生懸命にお話しをしています。その結果、受け入れてくれたとき、2人してまたまた大喜び。
もっと多くの人たちに、「盲導犬は使用者と一緒にお店に入ることが許されているんだよ」ということを知ってほしいよね。そうすれば、まだ不安で一歩を踏み出せない、目の見えない・見えにくい仲間たちも、盲導犬と共に外に出かけるようになるよね。
一緒にあちこちに行き、カエデの素晴らしさをみんなに知ってもらおう。そして、これからもお互いに社会参加のパートナーとして、共に笑顔で出かけていこう。親愛なるカエデさん、今後ともどうぞよろしくお願いします。
パートナーの誠より
小山は山本さんに、「カエデちゃんはどんな存在ですか?」と尋ねます。山本さんは、これまで外に出ることは怖くて不安だったと素直な気持ちを打ち明けます。「この子たちは楽しく表に連れ出してくれる。そのおかげで私たちも、見えなくなっても楽しい時間はあるなと感じる。そう思わせてくれる存在です。かけがえのない、共に歩くパートナーです」とコメントしました。
<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ