笹川友里がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。5月23日(土)の放送は、栗田工業株式会社 アドバンスドイノベーション本部長の水野誠(みずの・まこと)さんが登場。企業のAI活用、デジタル変革についてお聞きしました。
(左から)水野誠さん、笹川友里
水野誠さんは1997年に栗田工業へ入社。製鉄所を中心に営業、技術、商品開発の分野で経験を積み、2017年からIT部門でビジネス変革を担当。2019年にはデジタル戦略本部副本部長に就任し、Fracta Leap社と共同で「メタ・アクアプロジェクト」を立ち上げ、リーダーとしてDX推進をけん引。その後、2022年に執行役員・デジタル戦略本部長に就任。2025年にイノベーション本部長を経て、現在はアドバンスドイノベーション本部長を務めています。
◆世界へ広がる水処理ビジネスの全貌
栗田工業株式会社は、1949年創業の主に水処理に特化した企業です。例えば、半導体製造には、高純度の水が欠かせませんが、栗田工業は、その超純水(H2O以外のものが入っていない特殊な水)をつくる技術に加え、使用後の水を回収・再利用する技術を強みとしています。そして、現在は北米、ヨーロッパ、アジアなど世界各地に拠点を展開し、グループ全体の事業規模は約4,000億円にのぼります。近年は、半導体工場の建設が進むアメリカやヨーロッパへの対応を強化しています。
また、2020年にDXを推進するデジタル戦略本部を新設し、現在はアドバンスドイノベーション本部として全社のイノベーションを統括しています。その本部長を務めている水野さんは、「デジタルのお客さまは2ついる」と言い、1つは社員に向けたOX(オペレーショナル・トランスフォーメーション)、もう1つは顧客向けのBX(ビジネス・トランスフォーメーション)を挙げます。
OXでは効率性を高めるためにデジタル技術を活用。特に経営判断に必要な情報量や処理の速度、精度を同時に高めるといった難しい課題を、デジタルで簡単にしていくことが重要だと語ります。BXでは、環境価値と経済価値を両立する「トレードオン」の考え方を重視しています。
その事例として、水野さんが挙げたのが「CSVビジネス」です。通常、GHG(温室効果ガス)を削減しようとするとコストがかかりますが、栗田工業では、GHG排出削減、廃棄物の資源化または資源投入量削減のいずれかに大きく貢献する製品、技術、ビジネスモデルをCSVビジネスと定め、顧客のコスト削減と環境負荷低減を実現する仕組みづくりを進めています。
水野さんは、「説明がとても難しい商品ですので、その成功事例を(社内で)情報交換して、顧客担当の営業が同じ提案をしていくことによって、お客さまへ価値を速やかにお届けする。そのようなことをグローバル全体で取り組んでいます」と話します。
◆栗田工業のAI活用
栗田工業では、AI活用も現場レベルで大きく進化しています。特に力を入れているのが、サプライチェーン(原料調達から消費者の手元に届くまでの一連の流れ)における設計業務の効率化です。水野さんによると、水処理設備を顧客へ提供する際、高度なエンジニアリングをおこなっていますが、その設計には熟練技術者の暗黙知(長年の経験による直感やコツ)が数多く含まれていると言います。
そのため、経験豊富な設計担当者は、短時間で質の高い設計ができる一方、若手社員は暗黙知の部分も含めて学びながら進めるため、その分の時間と人件費がどうしてもかかってしまいます。そこで、水野さんは「顧客へより早く価値を届けるため、暗黙知を誰でも容易に引き出せるような仕組みづくりを進めています」と力を込めます。
さらに、ビジネスにおける生成AIの活用についても言及し、「以前は“今ある仕事にデジタルやAIをどう当てはめるのか”という考え方でしたが、この2、3年で思い切り考え方を変えて、AIやデジタルがある前提で“今の仕事はどう変わるのか”という取り組みで進めています」と語ります。
◆スタートアップとの協業で得た課題と成長
栗田工業では、2020年からグループ会社であるFracta Leapとの共同プロジェクト「メタ・アクアプロジェクト」が始動しました。水処理産業のデジタル変革を目指すもので、水野さんは「会長、社長みんなが参加するような非常に大きなプロジェクト」と言います。
このプロジェクトが立ち上がったのは、水道管のAI診断技術を持つアメリカ企業のFractaを買収したことがきっかけでした。デジタル分野に強みを持つFractaと共同で設立したFracta Leapと連携しながら、栗田工業は環境価値と経済価値を両立させるトレードオンの仕組みづくりを進めていきました。当時、デジタル戦略本部副本部長を務めていた水野さんは、「水処理についてはプロの自負があった一方、デジタルに関しては素人同然だった」と振り返り、「会社人生で一番つらい時期だったと言っても過言ではないです」と正直に明かします。
スタートアップであるFracta Leapは、目的に向かって一直線に進む組織でした。そのため、栗田工業のなかで既存の慣習になっていたことに対しても「変えるべきだ」と求められ、「会長や社長の前で正論をぶつけられ続ける状態。ずいぶん苦しみましたね」としみじみ語ります。しかし、この協業を通じて、会社がより強くなるための課題が明確になったと言い、「クリタにとって発見のほうが多かったんじゃないかなと思います」と声を大にします。
また、こうした変革の成果は、すぐに見えるものではないとも語ります。そこで、笹川が「水野さんのチームの方々のなかには、(変革によって)戸惑ったりされた方もいたと思うんですけど、そういう方々のケアはどうされたのですか?」と質問すると、水野さんは「やはり、現状から何か変えるとなると、困惑されるのも無理はないと思うので、“戸惑うのは当たり前”ということを伝えていくことかなと思います。そして、時間が経ってきたときに『あのプロセスは必要だったな』って実感できると思います」と話していました。
次回5月30日(土)の放送は、引き続き水野さんをゲストに迎えてお届けします。AI、デジタルが変える水処理の未来についてなど、貴重な話が聴けるかも!?
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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/