脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。
TOKYO FM がお送りするポッドキャストポータルサイト「TOKYO FM ポッドキャスト」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。
この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに、茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。
10月18日(土)の配信では、リスナーから寄せられた「音がない状態が不安……脳との関係は?」という相談に答えました。
パーソナリティの茂木健一郎
<リスナーからの質問>
私は以前、「ノイズキャンセリングイヤホン」(※周囲の雑音を打ち消して、静かにする機能を持つイヤホン)を使ってみたのですが、音がない状態が不安で、心臓の音まで気になってしまいました。何か作業するときも、テレビやラジオを小さくつけっぱなしにしておくと、人がいる気配で落ち着き、作業効率が上がります。これは脳のどういった働きなのでしょうか?
<茂木の回答>
ノイズキャンセリングイヤホンとか、最近は本当にテクノロジーが進んできていますよね。そんななかで、自分の音環境をどうしようというのは多くの方が考えているところだと思います。いい質問ありがとうございます。
もともと、環境から入ってくる音は、人間がコントロールできませんよね。虫の声とか、風の音とか、あとは誰かが話している声とか。こういう環境音は自分がコントロールできないものですので、それは人間の脳が適宜、無視する作用があるわけです。全部聞いていては仕方がありません。何か集中しているときというのは、適度にノイズがある。そしてそれが心地いいという脳の働きは確実にあるのです。
私なんかは、音がある程度響いていても気にならない。カフェなどで仕事をしていても全然気にならないほうなのですが、「集中するときにあえてノイズを使う」ことはあります。
脳には「“感覚遮断”の実験」というのがあって、環境からの情報が入ってこなくなると、かえって不安になってしまって、ハルシネーション(幻覚)を見たりすることが分かっています。ですから、適度なノイズは、とてもいいのではないかなと思います。
あとは、人によってこの「適度なノイズ」は違います。私は比較的、自分で音をかけるというよりは、周りから勝手に自分がコントロールできない音が聞こえてくるのが好きかもしれません。だから、カフェなどで仕事をするのは全然平気なのですが、自分であえて音楽をかけて仕事をするとか、勉強することはあまりしません。でも、これも本当に人によって、心地いいと感じる音が違うので、相談者さんのほうで、いろいろ探ってみるといいかもしれません。
あとは、タスクの内容によっても違います。例えば、私は日本語の文章を書いているときは、比較的言葉の情報は邪魔になったりします。でも、音楽のほうが邪魔にならなかったりする。脳のなかで似たような情報処理をしている回路が、外からの音で使われると相互作用してしまう場合もあります。ですから、どういうことに取り組んでいるかということによっても、音は、いろいろ違う作用もしますので、試していただいたらいいのかなと思います。
いずれにせよ、人がそばにいるという安心のシグナルとしてテレビとかラジオを使っていただくのは、本当にありがたいことです。このラジオの番組も、もしよかったらかけっぱなしで聴いて作業をしていただいて、時々「あっ、何かいいことを言っているな」とか、そういう聴き方でも全然いいので、ぜひ、いろいろ試していただけたらなと思います。自分にとって快適な音環境は、他の人と違って全然いいのですよ。
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音声版「茂木健一郎のポジティブ脳教室」
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<番組情報>
番組名:茂木健一郎のポジティブ脳教室
配信日時:毎週土曜 22:30配信(予定)
パーソナリティ:茂木健一郎