TOKYO FMグループの「ミュージックバード」で放送のラジオ番組「デジタル建設ジャーナル」。建設業界のデジタル化・DXを進めるクラフトバンク株式会社が、全国各地で活躍し、地域を支える建設業の方をゲストにお迎えするインタビュー番組です。世の中になかなか伝わりにくい建設業界の物語を全国のリスナーに広めています。
今回の放送では、岡山県の株式会社荒木組に注目。常務取締役の荒木洸太郎さんをゲストに招き、事業内容やDXの取り組みについて伺いました。
(左から)荒木組 常務取締役・荒木洸太郎さん、パーソナリティのクラフトバンク・金村剛史
◆神社仏閣などの伝統建築を数多く施工
株式会社荒木組は、大正10年の創業から104年を迎えた老舗の総合建設会社です。岡山県内を中心に、建築と土木の両分野を手がけるゼネコンとして、病院や福祉施設、保育園、物流施設、オフィスビル、工場、学校、さらには神社仏閣といった伝統建築まで、多岐にわたる建築実績を重ねてきました。
特に目を引くのが、神社仏閣の施工実績が多いことです。荒木さんは「毎年何かしらの伝統建築を手がけています」と言います。なかでも創業100周年の節目に取り組んだ「由加山蓮台寺(倉敷市)の本堂改修プロジェクト」は、5年にわたる大規模な工事となり、社内でも特別な案件だったといいます。
長期にわたるプロジェクトのなかで、施工過程をまとめたDVDも制作したそうで、「山から木を切るところから収録しました。営業やブランディングとして使っています」と説明しました。
さまざまな施工を手がけてきた背景には、地域での大きな信頼と実績があります。荒木さんは「弊社は評判を大事にしているので、実績を見てご紹介いただくことがけっこうありますね」と強みを語ってくれました。
◆協力会社の研修にも注力する理由
荒木組では「アラキ・アカデミー」と呼ばれる実践的教育制度にも力を入れています。特徴的なのは、自社の社員だけでなく協力会社の職長(現場監督)にもマネジメント研修をおこなっていることです。
この取り組みは8~9年前にスタート。当時の社長の強い意志によって始まりました。背景には、業界全体の深刻な人手不足があります。特に施工を担う協力会社にとっても、現場をスムーズに動かすための「マネジメント能力の向上」は重要なテーマとなっており、荒木組では「品質の高い仕事を実現するためのパートナー育成」という観点からも重視していると言います。荒木さんは「いいものを作るには、理念を共有できる仲間が必要です。そういった仲間を見つけられるプラットフォームにもなっているのかなと思います」と説明します。
職長の能力が高まれば、協力会社にもメリットがあるだけでなく、元請けにとっても早くて質のよい仕事につながります。「お互いにとって“Win-Win”の関係を築けますし、本当にいいものを作りあげるパートナーといった側面をすごく重視しています」と、その取り組みの意義を強調しました。
◆社員の「新しいもの好きな気質」がDX推進の鍵を握る
建設業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が広がるなか、荒木組は積極的な技術導入で業界の最前線を走り続けています。荒木さんに、同社におけるデジタル化の取り組みについて伺いました。
荒木組では、熱中症対策としてウェアラブルデバイスの導入を始めています。これは手首に装着するスマートウォッチ型のデバイスで、体温や脈拍などをリアルタイムで計測し、異常を検知するとアラートを発信する仕組みです。
「社員の発案で導入が始まりました。熱中症には個人差があり、気づいたときには手遅れになる可能性もあるので、現場の危機感から実現した取り組みです」と荒木さん。2025年6月から建設業界でも、事業者に対して労働者の熱中症予防が義務化されたこともあり、「全員が注意しなければならない」という認識のもと、現場全体で対策を強化しています。
また、現場での業務効率化にも力を入れています。荒木組では、ドローンを活用した測量や施工状況の確認、ICT建機(マシンコントロールやマシンガイダンス機能などの情報通信技術を搭載した建設機械)の導入も進めており、特に公共工事ではすでにスタンダードなものとして定着しています。「ゆくゆくは民間工事でも導入できないかと、費用対効果も含めて検証しています」と荒木さんは話します。
現場における書類作業の電子化も、同社のDXの柱のひとつです。安全書類や点検表、KY(危険予知)活動の記録、さらには打ち合わせの議事録まで、クラウド上で共有・保存できるようにし、どこからでもアクセス可能な体制を整えています。「サテライトオフィスのような仮設事務所を設けて、現場にいながら書類仕事も進められるようにしています」と荒木さん。紙からデジタルへの移行は、業務負担の軽減だけでなく、情報共有の迅速化にもつながっていると言います。
一連の荒木組のDX推進を支えているのは、社員たちの「新しいもの好き」な気質です。「出てきた技術はまず試してみる」という文化が根づいており、現場ごとに「今回はこのツールを試してみよう」と自発的な目標を立てて取り組む例も少なくないそうです。「将来的にデジタル化が進むのは明らかなので、早めにどんどん対応していくようにしています。みんな思い思いに効率化に努めています」と荒木さんは語ります。
◆荒木組のAI活用法を紹介
デジタル技術のなかでも、最近特に注目されているのが生成AIの活用です。荒木組では、議事録の作成や会議内容の要約など、日々の業務のなかでAIを積極的に取り入れています。たとえば、音声を録音し、自動で文字起こしと要約をおこなう専用デバイスを導入。これにより「会議内容や打ち合わせのやり取りも、約1分で要約される」といい、議事録作成にかかる時間が大幅に削減されました。
「まだまだ変換ミスは多いですが、社内の書類なら8割ぐらい正確なら問題ないだろうというスタンスです。それよりは社員がAIを使うことに慣れるのが一番大事だと考えています」という荒木さんの発言から、会社の柔軟な姿勢が伝わってきます。社長自ら「どんどん使っていこう」と後押しをしており、社員たちも「このAIはどんな感じかな?」と、自発的にさまざまなAIを試しているそうです。
荒木組では、反復的な作業や省力化できる部分をAIに任せることで、「人が本来やるべき仕事」に集中できる環境づくりを目指しています。「議事録作成にかかっていた時間が、AIを使うとゼロになるわけですね。そこで空いた時間を、付加価値を生み出す活動にあてられるようにしたい」と語るように、「単なる効率化ではなく、働く人の価値を高めるためのDX」が進められています。
◆時代の流れに乗った取り組みを続けていきたい
荒木組が目指しているのは、急速に変化する時代に柔軟に対応しながら、社員一人ひとりがやりがいを持って働ける会社づくりです。
現代では転職が当たり前になり、1つの会社で長く働くことが珍しくなりつつあります。そうした社会の流れを理解したうえで、荒木さんは「やはり、ずっと一緒に頑張っていきたいという思いがあります」と本音をのぞかせます。同社のように社員の顔と名前がしっかり把握できるような規模の企業では、職場は単なる仕事の場ではなく、「本当に仲間のような存在」になっているとも。
こうした思いは社員にも確実に届いているようで、たとえば、社内には親子で働く社員が3組も在籍しているそうです。「お父さんが会社のことをよく言っていなかったら、娘さんは決して入ろうとは思わないはず。だからこそ、会社を信頼して家族を送り出してもらえるのは本当にありがたいことです」と、荒木さんは思いを率直に語りました。
建設業界が急速に変化するなかで、荒木組は時代の流れを捉え、積極的な対応を進めています。AIやロボティクスをはじめとする技術革新が加速度的に進む今、現場ではすでに施工ロボットの試験導入など、未来を見据えた取り組みが始まっています。
鉄筋の結束作業を自動でおこなうロボットの導入もその1つです。現段階では課題もあるものの、「時代の流れにしっかり乗っていくことが大事」と、荒木組の現場では新たな技術の導入に向けた試行錯誤が今日も続いています。
<番組概要>
番組名:デジタル建設ジャーナル
放送日時:毎週日曜日 15:00~15:55