放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。7月6日(日)の放送は、歌人の俵万智(たわら・まち)さんをゲストに迎えて、お届けしました。
(左から)パーソナリティの小山薫堂、俵万智さん、宇賀なつみ
◆「サラダ記念日」の誕生エピソード
俵万智さんは早稲田大学在学中に歌人・佐佐木幸綱(ささき・ゆきつな)氏と出会い、短歌の世界に足を踏み入れました。1986年に「八月の朝」で第32回角川短歌賞を受賞。翌年に刊行された第一歌集「サラダ記念日」は大きな話題となり、280万部もの売り上げを記録! 短歌ブームの火付け役となりました。
以降も、日常の一瞬をみずみずしく切り取った作品を発表し続け、現代短歌を牽引。現在は歌人としての活動に加え、エッセイ執筆など多方面で活躍を続けています。俵さんは大学卒業後に高校の国語教師として4年間教壇に立ち、「私が教えていた頃は“何でも屋さん”といいますか、古文・漢文・現代文すべて受け持っていました」と、教育者時代を振り返ります。
さらには、7月6日は「サラダ記念日」として知られています。その由来は、俵さんの短歌「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」にあります。この歌が詠まれた背景には、思いがけない出来事があったそうです。
「実は、7月6日でもなく、サラダでもないんです。いつも作っている唐揚げをカレー味にしたら、ボーイフレンドがすごく気に入ってくれて。それで記念日にしたいと思ったのが最初だったんですね」と、俵さん。「唐揚げ記念日だと重い感じがして。私自身、野菜が好きだし、メインじゃないサブのサラダがいいかしらと思ってサラダ記念日が思いつきました」と続けます。
そのうえで、季節感と響きを大切にしながら日付を決定。「サラダのS音と7月(シチガツ)のS音が重なる響きもいいなと思いました」と、韻も大切にする短歌らしい視点を語ってくれました。小山から「7月6日が近づいてくると、もう1つの誕生日のような気持ちになりますか?」と尋ねられると、俵さんは「何でもない日を選んだつもりが、すごく特別な日になってしまいました。いろいろと意識してしまいますね」と、笑顔で答えました。
◆谷川俊太郎との初対面は衝撃的
詩人・谷川俊太郎さんとの交流についても、印象深いエピソードが語られました。谷川さんと初めて会った際、「あなたは現代詩の敵だよ」と言われたと俵さんは明かします。「現代詩では五音・七音からいかに自由になるかを日々考えてみんな努力をしているのに、そこにやすやすと乗っかっているのはずるい」と指摘を受けた俵さんでしたが、「笑顔で怖いことを言う谷川俊太郎さんってカッコいいと思って、大好きになりました」と当時を振り返ります。
その後、ふたりは一緒に美術館へ行くなど、インタビューを通して深い交流を重ねるようになります。コロナ禍には、画面越しで長時間の対談も実現しました。「谷川さんほどの人でも、“言葉で詩を書けるのか”とまだ疑っておられたんです。私たちは“言葉と世界は常にズレている”と意識しながら言葉を使う。それが言葉を丁寧に扱うことなんだと教えられたような気がします」と、俵さんは敬意を込めて語りました。
◆今を生きる“言葉”に焦点をあてた書籍を発売
2025年4月、俵さんは新著「生きる言葉」(新潮新書)を刊行しました。スマホとネットが日常の一部となり、顔の見えない人ともコミュニケーションできる現代社会は、便利な反面、やっかいでもあります。言葉の力が生きる力とも言える時代に、言葉の使い方を歌人ならではの視点で、実体験をふまえて考察する1冊となっています。
「今は言葉の力が生きる力に直結しているといいますか、便利な時代なんですけども、簡単に届けられるからこそ言葉を慎重に扱わないといけない側面もすごくあると思います」と、俵さんは強調します。人と人とをつなぐために生まれたはずの言葉が、時に人を深く傷つけてしまうこともある。それは非常に痛ましいことだと、俵さんは訴えました。
そんな俵さんが「お守りのように大切にしている言葉」として紹介したのは、寺山修司さんの短歌「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり」です。これは大学の机に書かれていたもので、そのときは寺山修司の短歌と知らなかった俵さんは、「いいことを言う学生がいるんだな」と感心したといいます。のちに作者を知った俵さんは、「歌との出会いとしてとても幸せだったなと思うし、自分の歌も作者に関係なく、誰かの心に住み着くことができたらなっていつも思いますね」とコメントしました。
(左から)俵万智さんの著書「サラダ記念日」と「生きる言葉」
◆俵万智が考える手紙の醍醐味
番組のテーマである「手紙」にちなんで、俵さんは手紙への深い愛着も語ってくれました。「学生時代はふるさとの家族宛てに毎日手紙を書いていました。息子が全寮制の学校にいたときも毎日送り続けていました」と話します。また、俵さんがかつて6年半暮らした宮崎には、ご当地ポスト「日向夏ポスト」があり、その足元には「日向夏くるくるむいてとぎれなく長くまあるく一人を想う」「まっさきに気がついている君からの手紙いちばん最後にあける」という自身の歌が刻まれています。
俵さんはスタジオに向かう途中にも、2通の手紙を書いていたといいます。「メールやLINEですぐに連絡が取り合えるのは本当に素敵で便利なことだと思うんですけども、手紙だとその人のことを思って便箋や切手を選んだり、“今頃届いたかな?”と思う“間”があるんですよね」と言います。
簡単にやり取りができてしまうと、少し返信が遅いだけで不安になることもあります。「手紙なら返事が来なくても気にならないんですよね。せわしなさから解放された、こういう時代だからこその手紙のよさがあると思います」と、俵さんは笑顔で語りました。
番組では、俵さんが父に向けて手紙を読む場面もありました。
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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ