ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。
9月17日(水)のテーマは「アニメはZ世代の心の闇を移す鏡?『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』空前の大ヒットに見るアメリカの今」。ニューヨークのZ世代は、実際に日本のアニメをどう捉えているのか探っていきましょう。

※写真はイメージです
◆映画「鬼滅の刃」が全米で大人気
ニューヨークでは先週、911から24年目の追悼式がしめやかに行われました。その前日に起きたのが国を揺るがす大事件、トランプ大統領の後継者ナンバーワンとも言われていた若手保守活動家のチャーリー・カーク氏が暗殺されました。銃社会アメリカで、銃を持つ権利を強く主張していたカーク氏がその銃で殺されたというのもショッキングでした。
アメリカで絶えることがない、学校や街での無差別な銃撃に加え、政治的な怒りやヘイトが原因の暴力事件が日常的になってしまったアメリカ、しかも外に目を向ければ終わらない戦争があります。多くの若者はどこにも逃げられない、まさに罠にはまったような気持ちにもなっています。
一方で先週末、アメリカでは『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下「鬼滅の刃」)が劇場公開され、日本のアニメとして歴史的なヒットとなりました。いったいアニメはなぜ、アメリカの若者からこれほどの支持を得ているのか、実はアメリカ社会の現状と無関係ではありません。今回は日本のアニメ人気はどこから来ているのかを、みんなで話し合います。
メアリー:「鬼滅の刃」が人気があるのは、すごく日本的な要素があるからだと思うんだよね。侍の刀とか。
アニー:たぶん、永遠に生き続けるヴァンパイアみたいな要素にちょっと似ているかも。噛まれると彼らの一員に変わってしまうのも同じだしね。それで、家族が皆殺しにされたとか、そういう悲劇が展開されるんだ。妹が感染しちゃって、治療法を見つけて彼女を救わなきゃいけない。
それに他のキャラクターたちもそれぞれ悲劇を抱えていて、共感しやすい要素があるよね。そういうのも『トワイライト』っぽいし、また吸血鬼とか『トワイライト』みたいなブームが来ているのかも
ケイジュ:なんでかわからないけど、ヴァンパイアってうちらの世代にはいつも大人気なんだよね。それに侍もね。アメリカ人はみんな侍のことを知っているし、入りやすいんだと思う。
メアリー:「鬼滅の刃」って多くのアメリカ人にとって初めて見るアニメで、ブームが雪だるま式に広がっていったんだよね。誰かがそれを聞いて、広めて、さらに広まっていくって感じでさ。
(左から)ミクア、シェリー、ヒカル、ノエ、シャンシャン、メアリー/©NY-Future-Lab
◆アメリカZ世代はマーベルに飽きてしまった?
多くの人にとって、「鬼滅の刃」は初めて見る日本のアニメでした。これまでアニメを見たことがなかった人も「鬼滅の刃」をきっかけにアニメの世界にハマっていきました。今、アメリカZ世代のほぼ半数が毎週何かしらのアニメを見ています。一方で国技とも言えるスポーツ、アメリカンフットボールを見るのは25%、この数字はアメリカ人にとって衝撃的な数字です。
まさに、「鬼滅の刃」への熱狂は、アニメ需要の高まりを浮き彫りにしているわけですが、実はほんの10年前にはラボのアニメファンでさえ、これほどのブームは予想できませんでした。
アニー:2000年代に育った個人的な経験から言うと、アニメはまだ全然ニッチなもので、同じアニメファンでも表立ってあまり話題にしたがらなかった。「え? 君もアニメファンだったの!?」みたいな、アニメファンってまるで違う国から来たような感じの存在だった。今みたいにオープンにアニメについて話せる時代じゃなかったんだよね。
メアリー:例えば、もし私がいま中学生だったら、昔の私のようにアニメを見ることでいじめられるようなことは絶対にないと思う。むしろアニメを見ないことでいじめられるかもしれないね。あと何と言っても、今の人たちは日本全体にもっと興味を持っているよね。周りで「日本に行きたい」「行く予定がある」って言う人が、本当に急に増えているんだ。アニメファンでもなくて普通の一般人、例えば私の同僚とかでもたくさんいるよ。
アニー:あと昔より多様なアニメが見られるようになったことも大きいよね。例えばラブコメや少年少女向け作品、日常系の作品など、気づいたら何百何千ものすごく多様な作品が見られるようになって、こうなってくると必ず自分が好きな作品が見つかる。さらに、1つの作品が数百話も続くこともあれば、最近のものは12話で終わるものもある。でも、続きが知りたくて漫画を買ってしまうこともあるんだ。
アメリカで多様なアニメが見られるようになったのは、NetFlixやCrunchyrollなどのプラットフォームが新旧含めて様々な作品を大量にアップするようになったから。それがコロナ禍の自宅待機中にエンタメを求めるZ世代に刺さり、たった10年でニッチからメインストリームのエンタメへと急拡大していきました。
それだけではなく、日本のアニメにはこれまでのアメリカのエンタメ作品にはなかった要素が詰まっているともいいます。特に同じコミックをベースにした、マーベルなどのスーパーヒーロー映画はこれまで映画館を若者で満杯にしていました。
メアリ―:みんな、マーベルには飽きちゃっているんだよね。私も以前は大好きだったよ。でも今や全て同じものに感じてしまうんだ。
ノエ:飽きたわけじゃないと思うけど、アニメの方がストーリーが優れているんだよ。人はキャラクターを掘り下げた物語を好むし、そこにはずっと深い意味が込められているからね。
マーベルやDCのスーパーヒーロー映画と明かに違うのは、物語の語り口なんだよね。アニメ作品は、キャラクターの感情や友情、身近な愛する者を救うことに重点を置いている。スーパーヒーロー作品はど派手で、世界のために全ての人々を救うような、そういう感じ。つまり、友情や感情よりも「俺が最強だ」という見え方が強いよね。
ある意味、派手に世界を救うスーパーヒーローのシンプルなストーリーではなく、友達や家族を救おうとする身近なキャラクターの心情や友情を掘り下げたアニメのストーリーに、今のZ世代が惹かれているのは間違いないと思います。
そして、時に暗いテーマは、この現代社会を映し出す鏡でもあります。「若者たちの複雑で矛盾した感情や心の闇を受け止めることができるのは、明らかにスーパーヒーローものではなくアニメなんですよね」とシェリーは話を結びました。
*
さて、ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークの若者たちと一緒にお届けしてきた「NY Future Lab」。6年間に渡り複数のラジオ局やフォーマットを変えながら継続してきたこの番組も、来週が最終回となります。
これまで長い間聞いてくださって本当にありがとうございました。来週は皆さんからのメッセージも読みつつ、6年の長い旅に一区切りつけたいと思います。
----------------------------------------------------
この日の放送をradikoタイムフリーで聴く
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
----------------------------------------------------
<番組概要>
番組名:NY Future Lab
放送日時:毎週水曜日18:40~18:55放送
出演:シェリーめぐみ
番組Webサイト: https://www.interfm.co.jp/nyfutureweb
特設サイト:https://ny-future-lab.com/