放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMの番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」。9月25日(日)の放送では、コーヒーの達人・大坊勝次(だいぼう・かつじ)さんをゲストに迎えて、お届けしました。
(左から)小山薫堂、大坊勝次さん、宇賀なつみ
大坊さんは、1947年生まれ、岩手県盛岡市出身の74歳。コーヒー店の基礎を学んだ後、1975年、27歳のときに南青山のビルで、手廻し焙煎器による自家焙煎とネルドリップを軸とした「大坊珈琲店」を開業。以来、年中無休を貫き、世界中の愛好家にネルドリップの深煎りコーヒーを届けてきましたが、老朽化によるビル取り壊しのため、2013年に惜しまれつつも閉店しました。
そもそも、大坊さんがコーヒーに興味を抱いたのは高校生のとき。「友達と文学談義をするために喫茶店のはしごなんかをしていたわけですね。それがすごく楽しくて。高校生ですから、将来のことも考えなければいけないようなときに、喫茶店で生活費を稼いで、あとは自分の好きなことができるのであれば……というようなことを漠然と考えていたんです。それがコーヒーやコーヒー店に興味を持った最初かもしれませんね」と振り返ります。
念願叶って27歳のときに「大坊珈琲店」を開業するも、オープン当初は「そんなに簡単にはいきませんでした。もう暇で暇で……ず~っと暇でした。暇だけども、暇のなかに『こんなにおいしいコーヒーを飲んだのは初めてだ』とか『俺はこういうコーヒー、好きだよ』というお客さんの目付きがあるんです。
そうすると何となく“大丈夫”っていう気持ちになるんですよね。たった1人のお客さんなんですけど、“もう少し頑張ってみよう!”という気持ちになる。実際、売上の数字はとてもじゃないけどやっていけるような数字じゃなかったと思います。ですけど、1人でやっていく以上は“これを守り続ければ、いつか何とかなるかな”という微かな希望に支えられて、続けられた」と大坊さん。
2013年に閉店するまでの38年間、年中無休で「大坊珈琲店」を切り盛りしてきたのは「自分は別に財産があるわけじゃないので、コーヒー屋で失敗するわけにはいかなかったんです。ですから、休む日を持とうなんて気持ちはさらさらありませんでした。必死だった」と本音を明かします。
お店をオープンして1年間は一切休まずに厨房に立ち続け、その後ようやくご褒美に休みをもらい、水上温泉に1人で行ったそう。
ところが、行った先で「店が気になって、気になって、ゆっくり休めない感じがして。でもせっかく来た以上、無理やり1泊して帰りましたけど(苦笑)。“早く店に行かなきゃ!”っていう。でも年中無休と言っても、(コーヒーの)抽出は従業員なり誰にでもできるものだと思っていますので、(休むときは従業員に任せて)店を抜けることはできたんですよ。日曜日と土曜日の2日休みにできたのは、それから20年後ぐらい」と話します。
今までで“最高の1杯だ”と自分で思えたことは、「はっきり言えば、ないですね」と大坊さん。というのも、「テイスティングというのは、粗を探して修正点を探すわけですから。例えば、昨日“こうしよう”と思ったことが実現していると、今度は別のこっちがおろそかになっている。このときのテイスティングではこっち(の粗)を見つけちゃうわけですから、“これを直さなくちゃ”と思う、そんなことの繰り返しです」とその奥深さを語ります。
そしてこの日は、スタジオで大坊さんにコーヒーを淹れていただくことに。多くのコーヒー通を唸らせてきた達人・大坊さんによる淹れたてのコーヒーを早速味わうと、宇賀は「ん~~~っ、すごい! 私、こんなに深いコーヒーを飲んだことはないと思います。深いのに苦くない」と驚きの声。小山も「深いんですけど、サラッとしている感じがありますね」とうなずきます。
大坊さんが淹れたコーヒーを試飲中の小山薫堂と宇賀なつみ
今回淹れたコーヒーについて、「どのくらい深煎りかと言いますと、焼いていくにつれて、珈琲の豆に含まれている酸味が消えていくんです。その酸味がほぼゼロになるところ、ここまで焼くんです。これが、私の深煎りです」と大坊さん。
「酸味がゼロになって、もう一歩深くすると、もっと濃厚な甘みが生まれるんです。ただ、そこまでいくと、今度は深煎りの苦味が立ち上がってくるんです。その苦味が出るところまでやっては駄目なんですね。その手前であって、かつ酸味がゼロに近づく。その酸味をどの程度なら残せるか。その酸味が少し残っているところと、苦味が生まれているところと、甘み……そのちょうど苦味が生まれる谷間なんですよ。
その谷間が、酸味が消えてから苦味が出るのであればいいんですよ。噛み合っているわけですよ。酸味と苦味が同居しながら、片方は消えて行きつつ、片方は生まれつつ……そこをどっちに傾けるか」とその繊細な工程を説明します。
大坊さんが使用されたコーヒー器具
ちなみに、大坊さんいわく、この手法はコーヒーに詳しい人たちからすると「否定される焼き方なんです」と驚きの言葉が。それはどういうことかというと、「今は野菜にしろ何にしろ、植物自体の味や産地なんかも随分と重要視されています。コーヒーの場合でも、『どこどこの産地で採れた豆です』とシングルオリジンのやり方が主流なんですけど、そういうものを浅煎りにすることによって、産地の特徴というものをキャッチできると思うんです。私はそれをやったこともないですし、できないんです。これは焼いて作った味ですから、豆本来の味は消し去ることになるんだぞっていう」と解説。
さらに「自分は決して、一つひとつの産地の豆というものを軽視しているつもりはない」とも。小山が「大坊さんの味になっているんですね」と話すと、大坊さんは「このグラデーションのなかで、ここの役割を君が、この役割を君がと、そういうふうにして自分の仲間を決めていったわけですから。軽視しているわけではないけれども、結局、豆の味を消して自分の味を作っているとずっと言われ続けていますので、それはそれでもいいかなと思います」と答えました。
コーヒーを飲み終えた宇賀が「感動しています。ずっと口のなかに(余韻が)残っていて。今日は何も口に入れたくないという感じになっています」と感想を伝えると、「繰り返しますが、これが正しいコーヒーかどうかはわかりません」と大坊さん。「おいしいもマズいも、決めるのは作る人ではなく飲む人であって、飲んだ人が“おいしい”と思うかどうかですから。自分がいくらおいしいと思って出しても、それは関係のないこと」とも話しました。
次回10月2日(日)の放送も、どうぞお楽しみに!
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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY’S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/post/