川瀬良子がパーソナリティをつとめ、日本の農業を応援するTOKYO FMの番組「あぐりずむ」。毎週火曜は、農業はもちろん、時代の先を見捉えるさまざまな研究をおこなっている東京農業大学から、最先端の農学研究を紹介します。10月4日(火)と10月11日(火)の放送では、2週にわたり東京農業大学・北海道オホーツクキャンパスでおこなった海洋水産学科の西野康人(にしの・やすと)教授へのインタビューをお届け。西野教授が研究している「流氷」のメカニズムや注目している海域について伺いました。
西野康人教授、川瀬良子
◆意外と知らない“流氷”の働き
海で見られる流氷は海水が凍ったものですが、西野教授によると「凍るのは海水中の水だけで、塩類は凍らない」と言います。海水が凍ってすぐは、氷のなかに塩類が残っているものの、「氷のなかに取り込まれた状態で固まってはいない。点々と濃縮されて残っていて、かつ重いので、時間が経つと氷の下からす~っと塩類が抜け落ちていくんです。なので、(流氷は)舐めてもしょっぱくない」と説明。
そして、「塩類が抜け落ちてできた隙間に、生き物が入り込む。それは自分で泳いで入るというよりも、海水が染みあがって隙間に入り、くっつくといったイメージです。氷にくっていて、氷のなかで光合成をして増えていきます」とメカニズムを解説します。
また、流氷のなかでアイスアルジー(海水が凍結する際に、海水中に存在した植物プランクトンが取り込まれたもの)が増えていくため、「流氷に茶色い汚れのような色がつき、それが増えて塊になります。見た目としては、とろろ昆布をお湯に入れたような状態」と補足。増えたアイスアルジーは大きな塊となるため、大型の動物も食べれます。春になり気温の上昇に伴い氷が融け、海中に放たれたアイスアルジーの塊は海底に沈んでいきます。
ちなみに、漁師のあいだでは、「“流氷が多い年はカニの身入りが良い”って言われているんですね。つまり、流氷が(カニの)エサを運んできてくれているのだろう”と考えられてきました。実際には流氷はエサを運んでは来ませんが、小さな植物プランクトンがアイスアルジーとして塊になることでカニも直接食べることができるようになるのです。流氷は我々がイメージしている以上にすごい働きをしてくれているんです」と声を大にします。
◆地球温暖化の観点からも注目される“オホーツク海”
海氷(海水が凍結したもの)の研究を続ける西野教授ですが、「流氷は、“流れる氷”なので、採取したときのことは分かっても、“いつどこでできて、どのような経験をして採取した状態になったか”という履歴が分からない」と難点を説明。そのため、「実はなかなか流氷の研究は進んでいない」と現状を語ります。
ちなみに、西野教授いわく、地球温暖化の影響を一番受けやすいとされているのが“オホーツク海”だそうで、「海が凍るか凍らないかの境界領域にある場所なので、一番影響が出やすい海域なんです」と理由を説明します。そして、今後も地球温暖化が進むと、南極、北極ともに氷の量が減ってしまい、氷が融けて海水面が上昇する、ホッキョクグマなどの生き物が生活できなくなるという予測はされています。
その一方で、北極の氷がなくなることで、「船が通れるようになるかもしれない。そうなると、ヨーロッパからアジアまで短時間で荷物が運べて、経済効果が上がる」と言う意見もあるそうですが、西野教授は「経済効果にしてもホッキョクグマにしても、植物プランクトンが有機物をつくって魚が摂りこみ、それを漁獲するので、どんなに経済効果があるといっても、(北極の氷がなくなることで)魚が全然獲れなくなったら意味がない」と指摘します。
これらのことを研究・調査するのはとても難しく「それで注目されているのがオホーツク海なんです。冬に海が凍り、春から夏にかけて融けるため“海水が凍ることで、生態系の出発点であるプランクトンに、どのような影響がみられるのか”ということを理解できるのです。
そういった基礎的なデータを得ることで、例えば“北極の氷がなくなったらどういうことが起こるか”など、いろんな形でシミュレーションができる」と力を込めます。
そして、「オホーツク海、南極海、北極海のデータを使って、今後(地球温暖化によって)どういったことが起こり得るかを推測していくことが、いま我々が目指している研究です」と結びました。
次回11月8日(火)の放送も、どうぞお楽しみに!
<番組概要>
番組名:あぐりずむ
放送日時:毎週月曜~木曜 15:50~16:00
パーソナリティ:川瀬良子
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/agrizm/